2009年の核廃絶提言

保有国は責任とビジョン共有し 「核兵器のない世界」への行動を

第7段
保有国は責任とビジョン共有し 「核兵器のない世界」への行動を

核兵器廃絶を目指し、長年取り組んできた経験から、今、強く感じてならないのは、核問題をめぐる潮目に大きな変化が起こりつつあることです。

つまり、従来の平和論的なアプローチだけでなく、核兵器の脅威が乱反射する状況を前にした現実主義的な判断に基づいて「核兵器のない世界」を求める声が、保有国の間からもあがっていることです。

こうした二つのアプローチを協働させることができれば、より大きな推進力を生み出すことが可能となります。キッシンジャー博士も、その重要性を指摘していました。

私は、この協働の軸となるものこそ、「明確なビジョン」「揺るぎない決意」「勇気ある行動」であると確信します。

このことを念頭に置きながら、私は、「核兵器のない世界」の実現に向けて、今後の5年間でその基盤を築くために、次の5項目の提案を行いたい。

一、来年に行われる核拡散防止条約(NPT)の再検討会議で、保有5カ国が「核兵器のない世界」のビジョンの共有を宣言し、ただちに具体的な準備作業に着手する。

一、国連に「核廃絶のための有識者パネル」を創設し、核軍縮プロセスにおける市民社会との協働体制を確保する。

一、2015年の再検討会議までに、各国の協力で核拡散防止のための環境を整備し、核兵器ゼロに向けての障害を取り除く。

一、2015年までに、各国が協調して、安全保障上の核兵器の役割縮小に積極的に取り組み、「核兵器に依存しない安全保障」への移行をグローバルな規模で進める。

一、2015年までに、「核兵器の非合法化」を求める世界の民衆の意思を結集し、「核兵器禁止条約」の基礎となる国際規範を確立する。

全廃達成の約束に誠実に応えゆく道

第1は、保有5カ国が「核兵器のない世界」のビジョンの共有を、来年のNPT再検討会議で宣言した上で、ただちに具体的な実行に向けての準備作業に着手することです。

NPTが不平等な構造をもった条約にもかかわらず、ほとんどの非保有国が加入し、その上、無期限延長まで認めるにいたったのはなぜか――。それは、保有国に軍縮促進を約束させることを前提に、核保有の選択肢を放棄することが、自国の安全と世界全体の平和につながると考えたからにほかなりません。

しかし、保有国が軍縮努力を長らく怠り、新たな核開発の動きもみられたことは、拡散防止の国際協力を進める上での信頼を損なう状況を招いてきました。

ゆえにシュルツ元米国務長官らも昨年に発表した提言で、「ゼロに向かうというビジョン無しには、我々の下降スパイラルを止めるのに必要不可欠な協力を得られないであろう」(『核軍縮・平和2008』、高文研)と警鐘を鳴らしたのです。

来年のNPT再検討会議で、保有5カ国が「核兵器のない世界」のビジョンの共有を誓約し、勇気ある行動に踏み出せば、保有国への信頼は大きく回復し、車の両輪であるはずの核軍縮と拡散防止は、相乗効果をあげながら前進を始めるに違いありません。

その上で、保有5カ国が取り組むべき措置として提案したいのは、(1)一切の核開発を行わないことを約束する「モラトリアム宣言」(2)核能力に関する透明性の増大(3)最低限の保有可能数について話し合うフォーラムの設置、です。

まず、保有5カ国による「モラトリアム宣言」を、来年の再検討会議の場で「核兵器のない世界」のビジョンと同時に誓約することを強く呼びかけたい。

もはや他国の優位に立つこと以外に核開発競争を進める積極的な理由はなく、現状凍結の誓約は、核兵器ゼロへの“最初の自制”を示すことになります。

それはまた、核能力の増強に終止符を打ち、戸田会長が告発していた、核保有にひそむ「勝他」の衝動をともに断ち切る作業につながっていくはずです。

次に、実際に「核兵器のない世界」への行程表をつくる前提として、核能力に関する透明性を確保することが重要となります。

米ソ両国による軍縮交渉以来の歴史が示すように、互いの状況が明らかでない限り、建設的な議論を進めることはできません。「モラトリアム宣言」で現状凍結を図った後、1年以内に国連の安全保障理事会で情報開示に踏み切ることを求めたいと思います。

その上で、核兵器ゼロにいたる道程において、各国で最低限どれだけの核兵器が不可欠になると想定しているのか、一度精査し、議論の俎上に載せることが必要となってきます。

国連事務総長も交えてフォーラムで協議を進める中で、各国が一定の水準――たとえば、最低限100発の保有が必要と判断したことが明らかになれば、それを核兵器ゼロに向けての中間目標と位置付けることができます。目標がひとたび具体性を帯びていけば、「核兵器のない世界」のビジョンは大きな求心力を生み出し、核兵器ゼロへの登頂を果たす上でのベースキャンプにすることもできると思うのです。

こうした一連の取り組みこそ、2000年の再検討会議で合意された「核兵器の全廃を達成する明確な約束」に誠実に応える行為とはいえないでしょうか。

かつてアインシュタイン博士は、「少しずつ進んでいるふりをし、必要な変革をあいまいな未来に先送りする余裕はない」(アブラハム・パイス著『アインシュタインここに生きる』村上陽一郎・板垣良一訳、産業図書)と訴えました。

国際の平和と安全の維持に第一義的責任を負う安保理の常任理事国でもある5カ国のリーダーは、この警句と責任をかみしめつつ、今こそ一致して「必要な変革」に踏み出すべきではないでしょうか。