2009年の核廃絶提言

人間に備わる無限の力で地球全体に不戦の潮流を

第12段
人間に備わる無限の力で地球全体に不戦の潮流を

国家のあり方をも根底から変える

以上、5項目にわたる提案を行いましたが、最後に強調したいのは、「核兵器のない世界」への挑戦は核兵器の廃絶だけでなく、国家のあり方や国際関係のあり方を根底から変える挑戦でもあるという点です。

かつてアインシュタイン博士は、核問題に対して各国は「黒死病の流行が全世界を脅やかしているような場合」にとる態度と同様に振る舞うべきだと主張しました。そうすれば、「重大な異議をさしはさむことなく、採るべき手段について迅速に意見の一致をみる」はずで、「自国だけが黒死病の害を免れて他国は黒死病によって多数の民が斃されるというような手段をとろうと考えることはない」と(『晩年に想う』中村誠太郎・南部陽一郎・市井三郎訳、講談社)。

この場合、倫理的にも現実的にもとるべき行動は明確かつ急務であり、自国の安全だけを追い求めることは許されないはずです。

創価学会の牧口常三郎初代会長は、100年以上も前に、「他の為めにし、他を益しつつ自己も益する方法」――いわば「人道的競争」に、国家間の対立を乗り越える道があると強調しました(『人生地理学』、『牧口常三郎全集第2巻』所収、第三文明社)。そして、各国が切磋琢磨しながら、人道的な行動と世界への貢献を良い意味で競い合い、平和的な共存の精神を広げゆく地球社会の創出を呼びかけていたのです。

私が提示した5項目の提案はいずれも、この人道的競争の理念をベースにしており、シュルツ氏らが呼びかけていた“核保有国のあり方を変化させる共同事業”と志向性を同じくするものにほかなりません。

この国家のあり方の変化が伴ってこそ、これまで核兵器の開発や維持のために注ぎ込まれてきた多くの資金や人的資源を、環境や貧困など地球的問題群の解決のために向けていく機運も生まれるはずです。

かつて、公民権運動の闘士であるキング博士が、「世界の権力闘争の力学を、だれも勝てないような核兵器競争から、全世界の人々の平和と繁栄を実現させるために人間の才能を管理できるような創造的競争に変えていく必要がある」(C・S・キング編『キング牧師の言葉』梶原寿・石井美恵子訳、日本基督教団出版局)と訴えたのは、そうした意味合いが込められていたと思うのです。

こうした地球社会の創出へとつながる人類史を画する挑戦を成就させる上で、市民社会の力強い後押しが何よりも欠かせません。

その意味で、世界のNGOの代表が集い、今月、メキシコで、「国連広報局NGO年次会議」が初めて軍縮を中心テーマに開催されることは、誠に時宜を得たものです。

このまま座して地球の脅威を看過するのではなく、私たちが生きるこの時代に「核兵器のない世界」の実現は不可能ではないことを、民衆自身の力で示そうではありませんか。

声を上げたり、行動を起こすのは、何も特別な人間にしかできないものでは決してありません。

“平和な生活を送りたい”“大切なものを守りたい”“子どもたちに苦しい思いをさせたくない”といった、人間としての当たり前の感情さえ持ち合わせていれば十分です。

平和と科学の巨人として20世紀の歴史に名を刻む、かのライナス・ポーリング博士もまた、行動に踏み出す決め手となったのは「妻から変わらぬ尊敬を受けたいという私の願いでした」と、私に率直に語られていたことが忘れられません(『「生命の世紀」への探求』、『池田大作全集第14巻』所収)。

この人間性の絆こそ、誰もが共有でき、行動の足場としていけるものではないでしょうか。

私どもSGIは、自分たちの身の回りで人間性の絆を強めていく「対話」こそ、迂遠のようでも世界平和への直道であると信じ、人間主義に基づく民衆の連帯を広げてきました。その輪は現在、192カ国・地域に広がっています。

平和のパワー創出の主役は「青年」

仏法では、「一念三千」といって、すべての人間の生命には、自らの一念の変革によって周囲や社会にも変革の波動を広げ、やがて国家や世界をも突き動かしていく無限の力が秘められていると説きます。

その力を一人一人から引き出し、結集していくのが、SGIが進める平和運動の眼目なのです。

人間には、物事を悪の方向にも、善の方向にも変えていく力があります。

アインシュタイン博士が発見した質量とエネルギーに関する有名な方程式も、もともとは物理の公式にすぎませんでした。

しかしそこに、かつてない「破壊のパワー」をもたらす兵器の青写真を見いだし、国家が総力を挙げて製造したものが核兵器にほかならず、人類は核時代の底なし沼から抜け出られなくなってしまった。

今度は、この方程式を、一人一人の人間の生命に備わる無限の可能性に敷衍させ、民衆の勇気を起爆剤に核時代に終止符を打ち、「平和と不戦のパワー」を一緒に生み出していくべき時を迎えています。

その最大の主役こそ、青年にほかなりません。

どんなに素晴らしい理想も、胸に描いているだけでは夢物語のままで終わってしまう。そこに“生きた現実”としての輪郭を帯びさせるためには、自分には何もできないのではないかといった無力感やあきらめと戦い、行動に踏み出す「勇気」が必要です。

その勇気の炎を社会に灯す熱源こそ、青年です。青年の情熱には、一人から一人、また一人へと伝播し、あらゆる困難の壁を溶かし、新しき人類史の地平を開く力が脈動している。

私たちは、核兵器廃絶への挑戦は「戦争のない世界」の基盤をつくる挑戦であり、その未曾有の挑戦に連なっていくことが“未来への最大の贈り物”になるとの誇りをもって、ともに手を取り合い、グローバルな民衆の連帯を力強く築いていこうではありませんか。