2012年のSGI提言

持続可能な未来に向けて 人類共通の目標を設定

第10段
持続可能な未来に向けて
人類共通の目標を設定

6月にブラジルで「リオ+20」の会議

災害に続き、第2の柱として取り上げたいのが環境と開発をめぐる問題です。

6月にブラジルで、国連持続可能な開発会議(リオ+20)が開催されます。

1992年の地球サミットから20周年を迎える現在までの成果を再検討するもので、主要テーマは「持続可能な開発及び貧困根絶の文脈におけるグリーン経済」と、「持続可能な開発のための制度的枠組み」となっています。

このうち前者のグリーン経済については、まだ定義が固まっていませんが、経済成長と環境保全の案分をめぐる調整的な概念として限定することはもとより、経済成長の新しいモデルづくりや雇用創出を図るための手段的な概念に狭めてはならないと訴えたい。

国連環境計画が昨秋行った国際青年会議では、グリーン経済を「人々の幸福、社会的公正、環境保護を同等の重みをもってとらえる、真に持続可能な、唯一の一体的枠組」と位置付ける宣言を採択しました。

世界の青年の代表たちによる未来への責任感に満ちた意欲的なビジョンとして私も強く共鳴します。

そこで私は、国連のミレニアム開発目標に続く新たな取り組みとして、持続可能な未来を築くための共通目標の制定を強く呼びかけたい。

先日、リオ+20に向けた最初の意見取りまとめの文書が発表され、そこでも「持続可能な開発目標」の必要性を提起する内容がありました。この機を逃さず、人類と地球が直面する課題を総合的に見据えた議論を深めていくことが求められます。

これまで国際社会では、国連のミレニアム開発目標に基づいて、貧困や飢餓で苦しむ人々の削減などが目指されてきました。

いわば、生まれた国や育った環境によって命の格差や尊厳の格差が生じている状態を、さまざまな角度から改善することを目指したもので、一定の成果を得てきましたが、目標期間が終了する2015年以降の新しい目標設定が必要との声が高まっています。

ゆえに私は、貧困や格差がもたらす地球社会の歪みの改善を求めたミレニアム開発目標の精神を継承しつつ、どの国の人々も避けて通ることのできない「人間の安全保障」に関する諸問題への対応を視野に入れた、〝21世紀の人類の共同作業〟としての目標を掲げるべきだと訴えたい。そしてリオ+20で、新たな共通目標を検討する作業グループを設置し、対話プロセスを開始することを会議の合意事項に盛り込むべきだと考えるものです。

その柱となる理念として、これまで論じてきた「人間の安全保障」に加えて、私が挙げたいのは「持続可能性」の理念です。

では「持続可能性」の意味するところは何か――。私がこれまで論じてきた文脈に沿って表現するならば、それは「誰かの不幸の上に幸福を求めない」生き方であり、「故郷(地域)や地球が傷つけられたままで、次の世代に受け渡すことを良しとしない」精神であり、「現在の繁栄のために未来を踏み台にせず、子どもや孫たちのために最善の選択を重ねる」社会のあり方といえましょう。

それは、何か義務感のような形で外から縛り付けるルールでもなく、重苦しさを伴った責任感のようなものでもない。むしろ、経済学者のジョン・ガルブレイス博士が私との対談集(『人間主義の大世紀を』潮出版社)で、21世紀の目指すべき姿として提起していた「人々が『この世界で生きていくのが楽しい』と言える時代」を築くために、皆で持ち寄り、分かち合う心ともいうべきものです。

私がかつて、国連のミレニアム開発目標について、「目標の達成はもとより、悲劇に苦しむ一人一人が笑顔を取り戻すことを最優先の課題とすることを忘れてはなりません」と注意を促したのも、博士と同じような思いからでした。

そのために必要となる倫理は、何もゼロから新しくつくりあげる必要はないでしょう。なぜなら、北米の先住民であるイロコイの人々が「すべての物事は、現代の世代だけでなく、地面の下からまだ顔を見せていないこれから生まれてくる世代にまで思いをはせて考えなければならない」との教えを伝承してきたように、さまざまな伝統文化や宗教に息づいていた生活実感――現代人の多くが見失ってきた精神の中に素地があるからです。

仏典にも、「目に見えるものでも、見えないものでも、遠くに住むものでも、近くに住むものでも、すでに生まれたものでも、これから生まれようと欲するものでも、一切の生きとし生けるものは、幸せであれ」(中村元訳『ブッダのことば』岩波書店)との教えがあります。

新たな目標の基盤となる倫理を規定する上では、外在的なルールとしてではなく、こうした生命観に根ざした〝誓い〟としての性格を、教育や意識啓発を通じて帯びさせることを目指す必要があるでしょう。

具体的には、貧困や格差の問題をはじめ、災害のような突然襲いかかる脅威を真摯に考慮すると同時に、生態系の破壊を食い止め、生物の多様性を保護するための課題を掘り下げ、考察していく。そして議論を重ねる中で、地球上の人々の生存・生活・尊厳を未来にわたって守り抜くためには、どんな生き方が求められ、いかなる社会を築いていくべきなのかを、世界の英知を結集して探求すべきだと思うのです。