識者の声2012年のSGI提言

平塚貴彦 島根大学名誉教授の声

平塚貴彦 島根大学名誉教授の声

平塚貴彦 島根大学名誉教授

今回の池田SGI会長の提言には、昨年の東日本大震災と福島での原発事故により多数の生命が失われ、被災者も未曽有(みぞう)の数にのぼり、今なお復旧・復興の道筋が見えない惨状への思いが色濃く反映されている。

気が遠くなるような筆舌に尽くしがたい苦難に直面しながらも、被災地だけでなく日本中の人々、さらには世界各国の多くの人々が復旧・復興活動にさまざまな形で直接的または間接的に参加しており、提言ではそこに人間の無限の可能性への期待を寄せている。

そして、真の復興を果たすためには、自他共の幸福の実現を目指す「同苦の心」と、「連帯の心」によってもたらされる被災した人々の「心の復興」「人生の復興」こそが必要であるとしている。

今回の災害を通じてあらためて認識された大事なことの一つが、人々の「絆」の存在とその大切さであった。提言のタイトルに「絆」の文字が入っているのもそのためだろう。

さて、提言の中で特に印象的だったのは、災害などのさまざまな苦難に直面しながら、なかなか将来に光が見えないまま、閉塞感が充満している今日的状況を乗り越えるための理念として、人々の生存・生活・尊厳を守り抜くための「人間の安全保障」を提示していることである。

そして、この「人間の安全保障」を確保・実現するために、どんな社会や経済の仕組みを目指し、どんな暮らし方を目指せばよいのかが問われているとした上で、約750年前に日蓮が著した「立正安国論」に流れる〝民衆の幸福と安全が第一〟との理念を紹介し、とりわけ国家の存在理由や存在意義もそこにあるとしている。時代状況が今日のそれと類似していたとはいえ、約750年も前の理念は、今なおみずみずしく貴重な教訓になるものと思われる。

また、人類共通の目標である「持続可能な未来」のために、原発に依存しない社会の創造を提言していることも、まさしく時宜(じぎ)を得たものであり、印象深かった。エネルギー政策における原発の位置付けについて、現在の人々の見解は多岐にわたっているが、「人間の安全保障」や「持続可能な未来」といった明確な理念に基づいた政策転換を求める提言だけに説得力がある。中でも再生可能エネルギーの開発に他国と協力して取り組み、途上国にも導入可能な技術革新の担い手に日本がなるべきだという提言は重要である。

その他、特に世界平和の実現のために、核兵器廃絶に向けた具体的な行動計画までも含めた対策を提言されていることに、池田会長の並々ならぬ熱意が感じられる。

いずれにせよ、長年にわたって「平和と共生の地球社会」の建設を目指して、グローバルな活動を精力的に主導している池田会長の内容の濃い数々の提案は、いずれも明確な理念と深い人類愛に裏付けられたものであり説得力がある。

加えて今回の提言には、とりわけ時宜を得たものが多く、さまざまな国難ともいえる苦難に直面してなお理念なく漂流を続けている日本の政治に対しても極めて示唆に富んだものであり、政治に携わる人々にもぜひ一読してもらいたいと思う。

ひらつか・たかひこ 1939年、愛知県生まれ。島根大学教授などを歴任。現在、島根農政研究会会長、島根県食育・食の安全推進協議会会長なども務める。

(聖教新聞2012年3月10日付掲載)