識者の声2012年のSGI提言

城忠彰 広島修道大学教授の声

城忠彰 広島修道大学教授の声

城忠彰 広島修道大学教授

30回目を迎えた今回の提言に接し、新聞で8ページに及ぶ内容に圧倒されるとともに、その提案の一つ一つに精緻な検討が加えられており、具体的で説得力のある論調が展開されていることに瞠目(どうもく)させられた。

これを手にした読者や市民のほとんどが、この提言の趣旨や内容に共鳴、共感すると思われる。

この提言の第1の特徴は、国際社会の最優先課題である「人間の安全保障」の確立に向けた精神的基盤、いわば私たちに必要な心構えや理念のありようが鮮明にされていることである。

人間の安全保障は、生存の危機に加えて、災害や自然環境の悪化、失業までも射程に入れるべきであり、「世界のどの地で起こる悲劇も看過しない」という世界市民としての自覚や、「将来世代に負の遺産を断じて引き継がせない」という持続可能性に基づく責任感が肝要となることが指摘されている。

そして、その成否を握るのは、「互いの魂を触発し合う一対一の対話」を通じた「憂(うれ)いの共有」から「誓いの共有」への昇華(しょうか)から生まれるエンパワーメント(内発的な力の開花)であること、簡単に言えば、自他共の幸福を志向し、苦悩を分かち合う努力が大切であることが強調されており、至言である。

第2の特徴は、地球的課題を克服するための民衆のエンパワーメントを最大限に引き出すためには、「人権文化の建設」といった将来を見据えた時代変革のビジョンが不可欠だと看破(かんぱ)されていることである。中でも目を引いたのは、女性への温かい眼差しと、女性の力を活用することの重要性が織り込まれていることである。

第3の特徴は、「核兵器禁止条約」の締結に向けた核軍縮・核廃絶へのロードマップ(行程表)について、かなりの分量が割かれていることである。

市民社会のイニシアチブによって、既に条約のモデル案や改定案が作成されており、列国議会同盟をはじめ、平和市長会議や核戦争防止国際医師会議、最近では「国際平和拠点ひろしま構想」などで条約の締結を求める運動が進んでいる。

国際法による核兵器の非合法化を図り、核廃絶への手段とするというのが本条約の意義であるが、それを前提にしたユニークな提言内容になっていることが、新鮮である。

この条約を基礎とする「核兵器のない世界」の実現は、1997年の対人地雷禁止条約や、2008年のクラスター爆弾禁止条約の成功事例ほど簡単でないことも事実であるが、世界的な潮流は確実に迫ってきていることもまた事実である。

以上が今回の提言を読んでの所感だが、今後の提言で、国際社会の権力構造の変革の必要性にも論及されることを期待したい。個人的には、世界が目指すべきガバナンス(統治のあり方)の究極の姿として、地域統合のモデルである欧州連合(EU)を地球規模に拡大したような、国家の主権をできるだけ制限してグローバルな問題の解決にあたろうとする「世界連邦」の構想を支持するものであるが、こうした視座からの検討も必要となってくると思われる。

じょう・ただあきら 1948年、長崎県生まれ。九州国際大学教授、英国リバプール大学客員教授などを経て、現職。共著に『軍縮問題入門』『なぜ核はなくならないのか――核兵器と国際関係』などがある。

(聖教新聞2012年3月2日付掲載)