識者の声2012年のSGI提言

ヘイゼル・ヘンダーソン博士の声

ヘイゼル・ヘンダーソン博士の声

ヘイゼル・ヘンダーソン博士

創価学会インタナショナル(SGI)会長の池田大作氏は、師匠である創価学会第二代会長戸田城聖氏への誓願を果たすため、よく思索され、しっかりした調査に基づき、先見性に富んだ平和提言を、1983年以来毎年発表されています。

「生命尊厳の絆輝く世紀を」と題する池田会長の2012年の平和提言は、会長がこれまで生涯をかけて取り組んできた人間の尊厳、持続可能な開発、平和の文化の構築に向けた運動の一端であります。

会長は、昨今の自然災害や気候変動、また急務となっている核拡散の終焉、そして地球と全人類に対する核の脅威の根絶という視点から、前述のテーマに光を当てています。

福島の原発事故により、故郷を離れることを余儀なくされた人々の苦しみは、今なお続いており、太陽光などの再生可能なクリーン・エネルギーへの転換が、人類社会にとって一層急務であると、指摘されています。対談集『地球対談 輝く女性の世紀へ』の中で共に語り合った、より公平なグリーン経済(循環型社会などを基盤とする経済)に対する会長のビジョンに私は共鳴し、深く賛同するものです。

会長は日蓮の「立正安国論」を通し、人間の安全保障を脅かす脅威や、人類の相互関係性を認識することの必要性に改めて言及されています。それはいずこの地で災害が起ころうとも、全人類およびすべての団体・組織が、「共感」と「同苦」の心で早急に対応することであり、さらには被災者を尊重し、彼らのエンパワーメント(内発的な力の開花)に向けた援助を行い、被災者の勇気と被災者自らの手による救援活動に敬意を払うべきであると言明されています。

こうした民衆自身が支え合い、助け合う絆を結んだ一例として、会長はワンガリ・マータイ博士の先見性に富んだ事業と、ケニアのグリーンベルト運動を挙げられています。私は、1981年にマータイ博士に初めてお会いし、その後親しくさせていただけたことを幸運に思います。ノーベル平和賞を受賞された後あまりにも早く逝去されてしまったことは、残念でなりません。

マータイ博士や私との対談の中でも語られましたが、会長は、これまで長年にわたり、女性が社会的に重要な役割を担っているとして、女性の力を十分に認めるべきであると訴えてこられました。

今回の平和提言の中でも、「兵庫行動枠組2005-2015」に盛り込まれている「あらゆる災害リスク管理政策、計画、意思決定過程にジェンダーに基づいた考え方を取り入れることが必要」との項目の履行を強く促されています。さらにこの項目を「法的効力を持つ原則」として打ち出すべきであると提起されています。

また、2011年12月に採択された「人権教育および研修に関する国連宣言」に言及するとともに、この宣言を履行するためのNGO(非政府組織)作業部会の議長を務めたSGIの役割についても以下のように述べられています。

「『平和の文化』に果たす女性の役割について意識啓発に取り組んできたSGIとしても、今後、災害に関する分野における女性の役割に焦点を当てた意識啓発を草の根レベルで広げていきたい」と---。このような発言は、私も親交のあったエリース・ボールディング博士と会長の対談集『「平和の文化」の輝く世紀へ!』にもよく表れており、会長のリーダーシップや生涯の功績に連なるものであることを確信します。

会長と世界のSGIの会員は、原子力から脱却し、再生可能エネルギーに転換することで人類のエネルギー需要を満たし得るという大きな可能性にむけて、長年にわたり運動を行ってきました。

日本は、太陽光、風力、地熱といったエネルギー資源に恵まれており、今後の開発の余地があります。投資を加速させれば、早ければ2030年に、遅くとも2050年までには、原子力や化石燃料への依存に終止符を打つことができるのです。

私の経営する会社が毎年発表するレポートでは、2007年から再生可能エネルギーに対する個人投資を追跡しており、今、世界では3.2兆ドル以上の投資がされていることが分かっています。

一方、原子力の技術は核兵器にも転用され得るものであります。会長が擁護する「核兵器禁止条約」を支持することで、核兵器については非合法化を実現させなければなりませんし、これは決して不可能なことではありません。

現在、世界的な問題となっているのが貧困や失業、格差問題です。

こうした世界的な不平等を根絶するための国連ミレニアム開発目標に焦点が当たるよう、「グリーン(地球にやさしい社会・経済)への移行」を慎重に定義するという課題を会長も共有しておられます。

提言の中で会長は、本年6月にブラジルで開催される国連会議(リオ+20)に注目されています。今、多くの国々が協調して、持続可能な開発を雇用の創出や人々の生活の改善にどのようにつなげていくかなどを真剣に議論しているのです。

加えて、シドニー平和財団のスチュアート・リース理事長との対談の中で、失業問題とそこから生まれる人間の尊厳に対する容認しがたい代償について語らいが行われていることにも言及されています。

失業は受け入れがたい問題です。なぜなら、それは本来、必要のないもの、すなわち、経済の欠陥や時代遅れの理論の代償であるからです。その結果、いまだに罪のない何百万もの人々が、世界規模の失業に苦しめられています。

これらは自然災害とは異なり、回避することができた災害です。こうした問題解決の糸口となる議論がなされるリース理事長との対談を読ませていただくことを楽しみにしています。この対談をはじめ、会長のすべての対談集は、人間への理解を豊かにしてくれると共に、小さな惑星に住む私たち人類の未来への素晴らしい助言となり、ビジョンや希望となるものです。

2012年の平和提言で明記されているように、人間の安全保障と持続可能性は、すべての国にとって極めて重要な課題です。

昨今、世界各地で青年が立ち上がることに、私は希望を見出しています。アラブ諸国で始まった「アラブの春」のみならず、米国では「ウォール街を占拠せよ」や「99パーセントの人々の運動」といった抗議運動が、今なお広がっています。欧州で起こった暴動は、青年の尊厳が否定されたことの必然的結果であり、スペインの「インディグナドス(怒れる者)運動」も、愚かな経済政策によってもたらされた4割もの失業率の産物です。

また、ギリシャや他の欧州各国における雇用削減や年金の喪失、「財政緊縮策」は、各国政府が無謀で強欲な銀行家の負債を引き受けた結果です。

会長は、「労働から生じるそれ自体価値ある深遠な人間的感覚を否定される」とのリース理事長の言葉を引用して、失業は単なる経済的な問題ではなく、人間の尊厳を奪い去る問題だと懸念を強められています。

提言では、こうした失業問題を含む、人類がこれから直面する課題が提示されており、今日までの経済とテクノロジーのグローバル化の偏狭な形式により起こった昨今の動乱の最中にあって、いやまして今日的な意味を含んでいます。

今こそ我々は、「人権」、「完全雇用」、「さらなるグリーンで公正な経済」のグローバル化を図らなければなりません。

そして、会長の長年のビジョンであり、生涯をかけられた活動である、平和と調和のとれた共生の世界の基盤となる民衆のエンパワーメントを、実現せねばなりません。

Hazel Henderson…イギリス生まれ。多くの草の根運動の創始者であり、市民運動家。30カ国以上の“持続可能な開発”のためのコンサルタントを務めてきた。「国連基金のための地球委員会」の創設に尽力するなど、国連支援活動も行う。ウスター工科大学名誉博士。著書に『エントロピーの経済学』『地球市民の条件』、共著に『地球対談 輝く女性の世紀へ』など。

(月刊誌「第三文明」2012年7月号掲載)