2013年のSGI提言

貧困に苦しむ人々の尊厳 社会的に保護する制度を!

第13段
貧困に苦しむ人々の尊厳 社会的に保護する制度を!

世界人権宣言の採択から65周年

続く第二の課題は、人権文化の建設です。

先ほどの「核兵器の禁止と廃絶」が国連総会で初めて採択された決議のテーマであったように、「人権」もまた国連の創設当初から目的の柱に据えられてきたテーマでした。

国連憲章の草案における人権規定が極めて限定的だった中、1945年のサンフランシスコでの制定会議で「平和の礎石を据えるつもりならば、誠実かつ正しくその基礎をおかなければならない」(ポール・ゴードン・ローレン『国家と人種偏見』大蔵雄之助訳、TBSブリタニカ)といった意見が相次ぎ、NGOからも明確な規定を求める声があがった結果、国連憲章の第1条で国連の主要目的として人権が位置付けられただけでなく、憲章で唯一、専門の委員会の設置が明記されたのです。

そして翌46年に人権委員会が設置されたのに続き、48年には「世界人権宣言」が採択されました。

人権委員会の初代委員長として制定作業に携わったエレノア・ルーズベルトが「あらゆる場所のすべての人にとって国際的マグナ・カルタとなりうる」(同前)と予見した通り、「世界人権宣言」は多くの国の人権規定に影響を与え、人権に関する諸条約を成立させる理念的基盤としての役割を果たしたほか、人権のために行動する人々を鼓舞し続けてきました。

その採択から65周年を迎える現在、「人権基準の設定」や「権利保障と救済のための制度整備」に続き、国際社会で重視されるようになってきたのが「人権文化の建設」です。

これは、人間の尊厳を共に守る気風を社会全体で育む取り組みを通し、規範の設定や制度の整備だけでは完結しえない人権保障の強度を、一人一人が意識をもって鍛え上げていくことを目指したものです。

まさしくそれは、私が、「生命の尊厳」に基づく文明を築くには、一人一人のかけがえのなさに目覚め、それを大切に守り抜こうとする心が社会全体に脈動しなければならないと訴えた方向性と、軌を一にする挑戦に他なりません。

人権文化の建設へ取り組むべき課題

国連では2005年にスタートした「人権教育のための世界プログラム」を通し、「人権文化の建設」を推進してきました。

私は、この取り組みを今後も強化することと併せて、2030年に向けての「持続可能な開発目標」の柱に、先ほどの軍縮と並んで人権の分野を加えることを呼びかけたい。

この点、国連のナバネセム・ピレイ人権高等弁務官が昨年6月、リオ+20の成果を踏まえつつ、“我々は「持続可能な開発目標」が人権に関する枠組みであることを確実にしなければならない„と訴えていたことに、深く共感します。

そこで私は、「人権文化の建設」の観点から、2030年までの目標として具体的に二つの項目を盛り込むことを提案したい。

一つ目は、極度の貧困に苦しむ人々が尊厳ある生を取り戻すための「社会的保護の床」を全ての国で整備することです。

「世界人権宣言」で生活水準についての権利が謳われているにもかかわらず、人間らしい生活をするための最低限の水準を保障する社会的保護を受けることができず、苦しい毎日を送らざるを得ない人々が世界で大勢います。

特に近年、世界経済危機のために、雇用や保健、教育などの面で人々が被る影響が厳しさを増しており、国連は2009年に「社会的保護の床イニシアチブ」を立ち上げました。

従来、こうした問題の対策としてセーフティーネット(安全網)の整備が考えられてきましたが、“網„では抜け落ちてしまう人も出てくる恐れがあり、全ての人を受け止め、尊厳ある生が送られるように支える“床„の概念が提起されるようになったのです。

世界中の人々に「社会的保護の床」を確保することは、かなりの難題のように思われますが、国連機関の試算では、最低限の所得や生計の保障に関する基礎部分の整備に限っていえば、どのような経済発展の段階にある国でも負担は可能であることが示されており、すでに約30カ国の途上国で導入が進んでいます。

こうした中、国連人権理事会でも「極度の貧困と人権」の問題が焦点となり、昨年9月には、その問題に取り組むための指針原則が採択されました。

そこでは、極度の貧困にある人が自分自身について決定を下す権利や、参加とエンパワーメントなどを原則に掲げる一方で、貧困の削減と社会的排除を解消する包括的な計画や、極度の貧困にある人に重点を置いた政策の策定が各国に呼びかけられています。

グラミン銀行の創設者であるムハマド・ユヌス氏が「貧困は運命をコントロールしようとするあらゆるものを人々から奪うため、人権の究極の否定になる」(『貧困のない世界を創る』猪熊弘子訳、早川書房)と訴えたように、貧困は尊厳の土台を蝕むものとして緊急性をもって取り組むべき課題です。

特に懸念されるのは、若者を取り巻く状況です。

世界の若者の12%が失業中で、仕事があっても2億人以上が1日2ドルに満たない賃金労働を余儀なくされており、ILO(国際労働機関)の総会が昨年6月に採択した決議では、「『活発な行動を即時に取らない限り、地球社会は失われた世代という悲惨な遺産』に直面することになる」(ILO駐日事務所のホームページ)との警告がなされています。

若者たちが希望を持てない社会に、持続可能な未来など描けるはずもなく、人権文化を育む気風が根づくこともありません。

ゆえに、「社会的保護の床」の確保こそ、持続可能性と人権文化の大前提であるとの意識で取り組むべきだと訴えたいのです。