2013年のSGI提言

子どもの権利を守る国内法を各国で整備

第14段
子どもの権利を守る国内法を各国で整備

キング博士の人権闘争の主眼

二つ目の項目は、全ての国で人権教育と人権研修を普及させることです。

前半で私は、どんな状況に直面している人であっても、人々との触れ合いや社会の支えが、絆や縁となって、生きる希望と尊厳を取り戻すための道が開かれることを強調しました。

人権の文脈でいえば、人権保障や救済措置といった法制度とともに、人権教育や研修を通じた意識啓発が、その縁になり得ると思います。前半で触れた人権教育映画では、人権侵害の被害者や、場合によって加害者になる可能性のある人々が、その縁に触れたことで、どんな変化が生じたかが紹介されています。

――差別に苦しんできた一人の少年は学校で人権教育を受けたことをきっかけに、おかしいと感じたことは思い切って言えるようになった。近所で少女が強制的に婚約させられた話を聞いた時には、家庭が貧しいからと理由を語る両親に、少年が「それは間違ってます。女の子も教育を受けないと」と懸命に訴えた結果、結婚はとりやめになり、少女は学校にとどまり続けることができた。

また、オーストラリアのビクトリア州の警察では、全職員が人権教育を受け、捜査や逮捕、勾留における対応の見直しが進められた結果、人権侵害への苦情が減り、市民との信頼関係も高まった――と。

この映画が浮き彫りにしているのは、自己の尊厳や他者の尊厳への目覚めを通して、人権に対する意識が実感をもって一人一人の心に宿ることで、人権文化の礎石が社会で着実に敷かれていくという事実です。

歴史学者のビンセント・ハーディング博士は、私との対談集で、盟友であったマーチン・ルーサー・キング博士の人権闘争の目的は「単に『不正や抑圧に終止符を打つ』だけではなく、『新しい現実を創造すること』にあった」(『希望の教育 平和の行進』第三文明社)と指摘しましたが、人権文化を建設する生命線も、この「新しい現実」の創造にあるのではないでしょうか。

そこで私は、「持続可能な開発のための教育の10年」に基づき、国連大学が進めてきた活動にならう形で、「人権教育と研修のための地域拠点」制度を国連の枠組みとして設けることを提案したい。

現在、同10年を推進するために世界で101の地域拠点が設けられ、大学やNGOなどが協力する形で、地域をあげて「持続可能な開発のための教育」を効果的に実践するための活動が行われています。

人権教育においても同様の制度を導入し、模範的な活動が進んでいる地域だけでなく、深刻な問題に直面した歴史を持ちながらも改善への努力を懸命に続けてきた地域を、積極的に対象に組み入れ、〝多くの痛みを実際に経験した地域〟ならではのメッセージを発信する体制を整えていくことを呼びかけたい。

それが、同様の問題を抱える他の地域にとっての何よりの希望や励みになるだけでなく、より多くの人々が実感をもって人権文化を世界中で育んでいく力になると信じるからです。

子ども第一の原則を確立するために

続いて、「人権文化の建設」を進める上で重要な担い手となる、子どもたちを取り巻く状況を改善するために、全ての国が「子どもの権利条約」とその選択議定書を批准し、条約に関わる国内法の整備を進めることを呼びかけたい。

1989年に採択された「子どもの権利条約」は、今や締約国が193に及ぶ、国連でも最大の人権条約となっています。

しかし、関連する国内法の整備が各国で十分に進んでおらず、また社会における意識の浸透にも課題が残っているため、いとも簡単に権利が無視されたり、重大な侵害が続く場合が少なくないのが現実です。

こうした中、特に重大な侵害を防ぐために制定されたのが選択議定書で、18歳未満の子ども兵士の禁止や、子どもの売買等に関する二つの議定書に加えて、2011年12月には権利侵害の通報手続に関する議定書が採択されました。

このうち、子ども兵士の禁止は、私も提言などで繰り返し訴えてきたものですが、シエラレオネでの内戦で子ども兵士として従軍した経験を持ち、現在は子どもの権利の実現を訴える活動に取り組んでいるイシュマエル・ベア氏が述べた言葉が忘れられません。

ベア氏は16歳の時、会議出席のために国連を訪れ、「子どもの権利条約」を初めて知った時の衝撃を、「この知識が――とりわけ紛争で荒廃した国々から来た子どもたちにとって――いかに私たちの生命の価値と人間性を改めて呼び覚ますものであったかを覚えている」と述懐した上で、こう強調しています。

「私の人生は、第12条及び13条によっても豊かなものとなった。そこでは、子どもや若者たちに、自分たちに影響を及ぼす事柄について自由に考えを表明する権利と、あらゆるメディアを通じてあらゆる種類の重要な『情報及び考えを求め、受け及び伝える』権利が保障されている。これらの条項のおかげで、大勢の子どもたちが、自分たちに影響を及ぼす問題に対する解決策を見つけるため、積極的に参加できるようになった」(『世界子供白書 特別版 2010』日本ユニセフ協会)と。

私は、ベア氏の経験に象徴されるように、「子どもの権利条約」が自らの尊厳性に目覚める源泉となり、若い世代の生きる希望の拠り所となるように、各国で条約を守る気風を確立し、社会全体に“子ども第一„の原則を根づかせていくべきであると訴えたい。

この気風の中で育った若い世代が社会の担い手となり、彼らがまた同じ心で次の世代を大切に育てていく――同条約の淵源となった1924年の「児童の権利に関するジュネーブ宣言」の前文に「人類が児童に対して最善のものを与えるべき義務を負う」と記されていますが、この崇高な誓いを世代から世代へ受け継ぐ流れを確立する中で、人権文化は社会を支える中軸に結実していくに違いないと思うのです。