識者の声2013年のSGI提言

アイラ・ヘルファンド核戦争防止国際医師会議(IPPNW)共同会長の声

アイラ・ヘルファンド氏の声核戦争防止国際医師会議(IPPNW)共同会長

核兵器は人類全体への脅威

限定的な核戦争でも深刻な被害

2013年1月に発表した平和提言で池田SGI(創価学会インタナショナル)会長は、核兵器の問題に関して、核兵器の存在自体が「生命の尊厳」への重大な冒瀆であると洞察されています。

ここ数年の新たな研究で、核兵器が人類全体に対する極めて深刻な脅威となりうることが例証されており、こうした研究が示す結果は、非人道的である核兵器の禁止条約の制定を求める池田SGI会長の訴えを力強く後押しするものです。

冷戦時代、米ソ間で大規模な戦争が勃発した場合、全人類に対する大惨事となりうることは周知の事実でしたが、2006年に発表されたアラン・ロボック氏とブライアン・トゥーン氏らによる研究では、限定的な地域核戦争ですらも、全世界に破滅的な影響を及ぼしうることが明らかになったのです。

ロボック氏らは、インドとパキスタンの間で戦争が起こり、それぞれがヒロシマ型の核兵器50発を使用した場合を想定して、どのような影響が起こるのかという予測を行いました。まず、直接的な影響で2000万人以上の命が奪われます。また、さらに悲惨な結果として、地球規模の気候変動が生じ、核爆発で生じた炎による煤煙が太陽光を遮るために、地球全体の気温が平均で1.3度低下すると予測しています。

最近のムトゥル・オズドガン氏とリリ・シア氏の研究によれば、この気候変動に伴い、食糧の生産量が大幅に減少し、アメリカのトウモロコシの生産量は10年にわたって平均で12%減少し、中国のコメ生産も10年にわたり15%減少すると見込まれているのです。

10億人以上が飢餓に陥る危険

世界には、こうした大規模な食糧生産の減少に対応する準備ができていません。現在の世界の穀物備蓄は、わずか70日分しかなく、現在、世界には8億7千万人もの人が栄養失調に悩まされています。

また現在、十分な栄養を得ている約3億の人々は、日本や韓国など、食糧の大半を輸入に依存する国に住んでいるのです。

もし南アジアで、限定的な核戦争が起こった場合、戦地からはるか何万マイルも離れた地域に住む10億以上の人々は、この戦争が起きた後に飢餓状態に陥る危険性があります。

もちろん、南アジアでの核戦争だけが「核の飢餓」の原因となるのではありません。

アメリカのトライデント潜水艦は96の核弾頭を装備し、それぞれの核弾頭は、南アジアの核戦争のシナリオで想定された核爆弾よりも10倍から30倍の威力を持つとされています。したがって1隻の潜水艦で「核の飢餓」を何度も引き起こす能力を有しているのです。

アメリカは、このような潜水艦14隻と陸上ミサイルのほか、巡航ミサイルや無誘導爆弾を搭載した爆撃機を保有しています。ロシアも同様に、核兵器による過剰な殺戮力を保持しています。

核保有国は「核兵器を使用することはありえないから心配ない」と言いますが、彼らの言明を受け入れられる合理的な理由は見つかりません。アメリカとロシアは、3000発以上もの核弾頭を15分以内に発射可能なミサイルに搭載しており、この世界を30分以内に破壊することができるのです。

大きなカギ握る非保有国の行動

これは尋常なことではありません。安定的な平和が構築された2カ国の間で相手に取る態度ではないのです。両国がこのような核戦力を保持し続ける限り、意図的であれ偶発的であれ、核兵器が使用される現実の危機が存在するのです。1979年以来、少なくとも5回、自国が攻撃の危機にさらされているという誤解に基づいて、モスクワかワシントンの一方が、他方に対する核攻撃の開始を準備するという事態があったことを、我々は認識しています。

米ロ間で大規模な戦争が起これば、世界の気温は平均で8度下がることになります。地球はそれほどの低気温を最後の氷河期以来、1万8千年もの間経験していません。こうした環境では食糧生産は停止し、人類の大半が飢餓にあえぐことになり、人類の絶滅もありうるのです。

2013年3月、ノルウェー政府が主催し、世界127カ国が参加した「核兵器使用の人道的影響」に関するオスロ国際会議に、国連安全保障理事会の5つの常任理事国は参加しませんでした。この不参加は、核保有国が率先して核兵器の廃絶に取り組む姿勢がないことを浮き彫りにしました。

そうした意味でも、池田SGI会長が訴えておられる「核兵器禁止条約」の制定が実現できるかは、非保有国の取り組みによるところが大きいのです。

プロフィル

救急医療医師。社会的責任を求める医師の会の共同創設者で、同会の会長などを歴任し、2012年から現職。核兵器による放射能汚染や、核不拡散と軍縮などが専門。近年は、核戦争が健康と環境に及ぼす影響について講演や執筆を行うとともに、マスメディアを通じて積極的に訴える活動に取り組んでいる。

(聖教新聞2013年4月18日付掲載)