2015年のSGI提言

国際移住者への差別や人権侵害の解消が急務

第10段
国際移住者への差別や人権侵害の解消が急務

難民や避難民が5120万人に

第一の柱は、難民と国際移住者の人権を保護するための〝行動の共有〟です。

最初に提案したいのは、今秋に国連で採択が予定される新しい国際目標の項目に、「すべての難民と国際移住者の尊厳と基本的人権を守ること」を盛り込むことです。

冒頭で触れた通り、私の師である戸田第2代会長が〝地球上から悲惨の二字をなくしたい〟と訴えた時、念頭にあったのは、1956年のハンガリー動乱で、多くの人々が難民となり、塗炭の苦しみにさいなまれている姿でした。

20世紀を〝難民の世紀〟と呼んだ哲学者のハンナ・アレントは、「自分が生れ落ちた共同体への帰属がもはや自明ではなく絶縁がもはや選択の問題ではなくなったとき」、その人々は「市民権において保証される自由とか法の前での平等とかよりも遙かに根本的なものが危くされているのである」(『全体主義の起原2』大島通義・大島かおり訳、みすず書房)と警鐘を鳴らしました。

まさに人間の尊厳の土台となる〝自分を自分たらしめてきた世界〟を丸ごと失い、人権が根こそぎ奪われる悲惨にこそ、難民の人々の苦しみの根源があるといえましょう。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は当初、1950年に暫定的な機関として設置されたものでした。主要な目的は、第2次世界大戦によって生じたヨーロッパの難民を保護することにあったからです。

それが、大規模な難民流出を引き起こしたハンガリー動乱を経て、アジアやアフリカなどでも難民問題が相次ぎ、何度も活動期限が更新される中、2003年の国連総会で「難民問題が解決するまで恒久的に存続する機関」とすることが決まった経緯があります。

これまで多くの難民を救援してきたUNHCRの貢献は大きく、SGIもさまざまな形で活動の支援に取り組んできました。

しかし近年、世界が混迷を深める中で難民問題は一段と深刻化し、国外に逃れた難民の数に、国内避難民や庇護申請者を合わせた数は、5120万人にのぼります。しかも、難民の半数を18歳未満の子どもたちが占めているのです。

牧口会長が提起した3つの自覚

なかでも懸念されるのは、5年以上、自国から離れて生活することを余儀なくされている「長期化難民」の状況です。

その数は、UNHCRが支援対象とする難民の半数以上にも達します。また、滞在年数の平均が約20年に及ぶため、避難してきた人々の子どもや孫の世代までもが、政治的にも経済的にも社会的にも著しく不安定な立場に置かれる恐れが広がっているのです。

また、世界で1000万人以上と推定される「無国籍者」の問題も深刻です。UNHCRでは、今後10年間で「無国籍者」をなくすキャンペーンを、昨年から開始しました。

国籍がないために、医療や教育を受けられないばかりか、家族の安全を守るために身分を隠して生活せざるを得ない人も少なくありません。人権抑圧や暴力から逃れようと避難する中で出産した場合、出生証明書が得られずに、子どもたちまで無国籍者になるケースも増えています。

私はこの点に関し、牧口初代会長が『人生地理学』で提起した、人間の三つの自覚を思い起こします。

つまり人間は、①地域に根差した「郷民(郷土民)」、②国家の中で社会生活を営む「国民」、③世界との結びつきを意識して生きる「世界民(世界市民)」、の三つの自覚を併せ持つことができ、その重層的なアイデンティティーを自分らしく輝かせる中で、人生の可能性を豊かに開花できる、と牧口会長は強調していたのです(『牧口常三郎全集第1巻』を参照。)。

その意味で、長期化難民や無国籍者となった人々に閉ざされてしまうのは、国民として社会生活を営む道だけではありません。

地域で自分らしさを保ちながら近隣の人たちと心を通わせて暮らすことも、他国の人々と連帯して自分たちが望む世界に向かって行動を起こす道も、断たれてしまうのです。

こうした人々の苦しみを取り除くことを、国連の「創造的進化」に基づく対応が求められる課題として位置付け直すことが、新目標の骨格として志向される〝あらゆる場所〟や〝すべての人々〟との包摂性を、追求する上で欠かせないのではないでしょうか。

そして、その挑戦こそが、世界人権宣言が希求する「普遍的な人権」の本旨に適うものではないかと強調したいのです。

生きづらさと疎外感の高まり

難民をめぐる課題と並んで、世界で2億3200万人に達する国際移住者を取り巻く問題に目を向け、人権状況の改善を図ることも急務となっています。

経済不況が長引き、社会不安が広がる国の間で、移住労働者の存在が悪いイメージで語られ、家族にまで差別や敵視が向けられる空気が強まっています。

その結果、正規雇用の機会をはじめ、教育や医療を受ける権利が著しく制限されたり、日常生活で不当な扱いを受けても問題視されないために、移住労働者と家族が生きづらさと疎外感にさいなまれる状況が広がっているのです。

そうした中、国連でも、移住労働者への誤解や偏見を改めることが呼び掛けられるようになりました。2年前の「国際移住と開発に関するハイレベル対話」でも、移住とその開発に対する重要性が、新しい国際目標に反映されるべきとの合意をみています。

しかし私は、このテーマを開発の次元だけにとどめず、移住者と家族が直面する苦しみを取り除くことに重点を置く形で、その基本的人権の保護を新目標に明確に盛り込むことを訴えたいのです。

90年に採択されながらも加盟国がまだ少ない、移住労働者権利条約の批准促進や、国際労働機関が提唱する「ディーセント・ワーク」(働きがいのある人間らしい仕事)の確保など、既存の枠組みも活用しながら、国際移住者に焦点を当てた対策を強化すべきと思うのです。