青年の視点2016年のSGI提言

苦しみ抱える人々の声に耳を傾け地球的課題の解決を!

第8段
苦しみ抱える人々の声に耳を傾け地球的課題の解決を!

仙台防災枠組で掲げられた原則

こうした教育のアプローチと併せて、私どもSGIがすべての活動の基盤として重視してきたのが、対話の実践です。

「誰も置き去りにしない」世界を築くために、まずもって対話は絶対に欠かせない――それは、私自身の信念でもあります。

人類が直面する課題の解決といっても、その取り組みによって一番に守るべき存在は何か、それを誰がどのようにして守っていけば良いのかについて、常に問い直しながら進むことが大切ではないでしょうか。

つまり、「厳しい状況に置かれている人々の目線」から出発し、解決の道筋を一緒に考えることが肝要であり、その足場となるのが対話だと思うのです。

近年、災害や異常気象による深刻な被害が相次ぐ中、昨年3月、仙台で第3回「国連防災世界会議」が行われました。

採択された仙台防災枠組では、2030年までに世界の被災者の数を大幅に削減するなどの目標が掲げられましたが、私が注目したのは、原則の一つとして「ビルド・バック・ベター」の重要性が強調されたことです。

「ビルド・バック・ベター」とは、復興を進めるにあたって、災害に遭う前から地域が抱えていた課題にも光を当てて、その解決を視野に入れながら、皆にとって望ましい社会を共に目指す考え方です。

防災対策として、独り暮らしの高齢者の家の耐震化を進めたとしても、それだけでは、その人が日々抱えてきた問題――例えば、病院通いや買い物にいつも難儀してきたような状況は取り残されてしまう。こうした被災前から存在する、見過ごすことのできない課題も含めて、復興のプロセスの中で解決を模索していく取り組みなのです。

「三重のたかどの」の話

こうした復興の課題を考える時、思い起こすのが、次の仏教説話です。

――ある時、富豪が建てた三重の楼を見て、その高さや広さ、壮麗さに心を奪われ、同じような建物が欲しいと思った男がいた。

自分の家に帰り、早速、大工を呼んで依頼すると、大工はまず基礎工事に取りかかり、一階、二階の工事に入った。

なぜ大工がそんな工事をしているのか、理解できなかった男は、「私は、下の一階や二階は必要ない。三階の楼が欲しいのだ」と大工に迫った。

大工はあきれて述べた。

「それは、無理な相談です。どうして一階をつくらずに二階をつくれましょう。二階をつくらずに三階をつくれましょうか」と(「百喩経」)――。

その意味で、復興の焦点も、街づくりの槌音つちおとを力強く響かせることだけにあるのではない。

一人一人が感じる〝生きづらさ〟を見過ごすことなく、声を掛け合い、支え合いながら生きていけるよう、絆を強めることを基盤に置く必要があるのではないでしょうか。

つまり、人道危機の対応や復興にあたって、「一人一人の尊厳」をすべての出発点に据えなければ、本当の意味で前に進むことはできないことを、私は強調したいのです。

そこで重要となるのが、危機の影響や被害を最も深刻に受けてきた人たちの声に耳を傾けながら、一緒になって問題解決の糸口を見いだしていく対話ではないでしょうか。

深刻な状況にあるほど、声を失ってしまうのが人道危機の現実であり、対話を通し、その声にならない思いと向き合いながら、「誰も置き去りにしない」ために何が必要となるのかを、一つ一つ浮かび上がらせていかねばなりません。

何より、つらい経験を味わった人でなければ発揮できない力があります。

仙台防災枠組」では、市民や民間団体の役割として、知識や経験の提供などを挙げていますが、なかでも被災地から発信されたものには何ものにも替えがたい重みがあると思います。

東日本大震災でも、自らが被災者でありながら周りの被災者を励まし、心の支えとなる行動を続け、復興の力強い担い手となってきた人は大勢いました。私どもは復興支援を続ける中でその意義をかみしめながら、防災をめぐる国際会議などで「被災者の声と力が復興を進める重要な鍵となる」と訴えてきたのです。

同様に、国連の新目標の推進にあたっても、厳しい状況にある人たちの声に耳を傾けることが、各国や国際機関、またNGOなどが、自らの活動の方向性を見定め、さらに実りあるものにする上で外せない一点ではないかと思います。

その意味で、新目標のとりまとめに尽力した、国連のアミーナ・モハメッド事務総長特別顧問が、国際社会の結束を強めるための要諦について語った次の言葉に深く共感します。

「この問題は、私たちの人間性の居場所を見つけることにもつながります。課題や紛争が山積し、来る日も来る日も、良いニュースがほとんどないような世界へと迷い込む過程で、私たちが落としてきたものを再び拾い上げる、ということです」(国連広報センターのホームページ)

対話とはまさに、その人間性を社会が取り戻すために、いつでもどこでも誰でも始めることのできる実践ではないでしょうか。