2017年のSGI提言

人々をつなぐ「信頼」の輪がプラスの連鎖を生む源泉に

第9段
人々をつなぐ「信頼」の輪がプラスの連鎖を生む源泉に

関係性の網に自分の糸を紡ぐ

大乗仏教には、この問題解決のダイナミズムを示唆するような「煩悩即菩提」の法理が説かれています。

人間の幸福は、悩みや苦しみをもたらす煩悩をなくすことや、そこから離れることで得られるのではなく、悩みや苦しみを抱える自分自身の生命にこそ、菩提(人生を切り開く智慧や力)が秘められているとする、〝視座の逆転〟を提示した法理です。

問題は、煩悩の苦しみだけにあるのではない。煩悩にどう向き合い、そこからどのような行動に踏み出すかにあります。

日蓮大聖人も、法華経の「一切の苦・一切の病痛を離れ、く一切の生死のばくを解かしめたまう」の文について、「離の字をばあきらむとよむなり」(御書773ページ)と説きました。

自分を取り巻く問題と真正面から向き合い、状況を明らかにして行動を起こす中で、煩悩の苦しみを感じていた自分が、そのまま、幸福を自ら切り開く存在になっていけることを説いた変革の原理なのです。

また仏教では、その変革の波動は、相互連関を織り成す関係性の網を通して、周囲や社会にも大きく広げていくことができると促しています。

状況に縛られるのではなく、自分の手で関係性を紡ぎ出し、状況を変えていくという視点は、興味深いことに、哲学者のハンナ・アーレントが、「フマニタス(真に人間的なもの)」について論じた際に提起していたものでもありました(以下、ジェローム・コーン編『アーレント政治思想集成1』齋藤純一・山田正行・矢野久美子訳、みすず書房)。

彼女は、師であるヤスパースの「公共的領域への冒険」の言葉を通し、こう述べています。

真に人間的なものは孤立したままでは得ることはできず、「自分の生ならびに人格を『公共的領域への冒険』に委ねることによってのみ達成されうる」と。

そしてその冒険は、「関係性の網の目のなかに、私たちが自分自身の糸を紡いでいくということ」であると位置づけました。

私が何よりも共感したのは、「それがどのような結果を生むかは、私たちにはけっしてわかりません」と断りながらも、アーレントが深い確信をもって語った次の結論です。

「この冒険は人間を信頼することにおいてのみ可能であると申し上げておきたいと思います。つまり、なかなかそれとしてイメージを結ぶことは難しいけれども、根本的な意味であらゆる人間が人間的なものに対して信頼を抱くことです。そうでなければ冒険は不可能です」

その信頼とは、「根本的な意味で」とあるように、自分自身への信頼や、周囲の人々に対する信頼にとどまらず、〝自分たちの生きる世界にどこまでも希望を失わず向き合う〟という意味での信頼をも含んでいるのではないでしょうか。

タンザニアの女性が勝ち取ったもの

国連機関のUNウィメンは昨年、「私のいる場所から」と題し、厳しい環境に置かれながらも人々のために行動し、SDGs推進の一端を担う女性たちを紹介しました。

その中に、タンザニアでソーラー発電の技術者として活躍する女性がいます。

障がいのある彼女は、苦労を重ねながら技術を身につけ、その知識を自分の村のために生かす努力を続けてきました。

当初、多くの男性は、彼女の仕事を認めようとしませんでした。

しかし、彼らの家にソーラー器具を設置して光を灯し、壊れた時には修理を行う中で、次第に彼女の仕事に敬意を払う男性たちも出始めるようになったといいます。

彼女は語っています。

「日が沈むと暗闇に包まれていたかつての村に、今は光が灯ります。たった今ですが、二人の子供が、私の直したソーラーランタンを引き取りに来ました。大きな笑顔を浮かべていました。きっと今夜宿題をすることができるのでしょう」(UN Women日本事務所のウェブサイト)

ここでは、再生可能エネルギーの導入が進むだけでなく、女性に対する見方が少しずつ改められ、子どもたちが勉強する環境も整えられている――まさに〝民衆のアジェンダ〟の字義通り、一人の女性が立ち上がったことで、SDGsを前進させるプラスの連鎖が、タンザニアの村で実際に起きているのです。

私は、地道ながらも尊い彼女の取り組みに、アーレントの言う「自分自身の糸を紡いでいく」ことで、自分の今いる場所を照らし出す「フマニタス(真に人間的なもの)」の輝きをみる思いがしてなりません。

問題解決の力は、特別な人だけに具わっているわけではありません。

現実と向き合い、その重みの一端を引き受け、行動の波を起こす――。

困難を乗り越える力は、自分が感じた心の痛みを決意に変えることで、誰にでも発揮できる道が開けていくのです。

とりわけ青年には、みずみずしい感性と理想への情熱を燃やして、人々をつなぐ信頼と信頼との結節点となり、プラスの連鎖を巻き起こす大きなエネルギーがあります。

無力感を打ち払う青年部の取り組み

戸田第2代会長の「原水爆禁止宣言」以来、私ども創価学会とSGIの平和運動の中核を、一貫して担ってきたのも青年です。

現代社会に広がる〝自分が行動したところで何も変わらないのではないか〟との無力感を打ち払い、「今ここにいる自分だからこそ、果たせる使命がある」との思いに立って、意欲的な行動を広げています。

日本の青年部は、3年前からSOKAグローバルアクションの運動を行い、東日本大震災で深刻な被害を受けた東北の〝心の復興〟を後押ししてきたほか、中国や韓国との交流を通じた「アジアの友好」の推進と、「平和の文化」を建設し、核兵器の廃絶を目指す活動を進めてきました。

各国の青年部も、環境保護の活動や人権教育をはじめ、非暴力の意識を高める取り組みなど、現実変革への挑戦を続けています。

DGsに焦点を当てた活動にも力を注いでおり、昨年11月には、「青年こそがSDGsの普及と推進をレベルアップさせる」と題する会議を国連本部で共催しました。

持続可能な開発のための2030アジェンダ」担当のデビッド・ナバロ国連事務総長特別顧問は、会議でこう訴えました。

「世界中の青年が持続可能な開発の運動で活躍できる場を作らなければならない。青年は共に行動し、歓喜を共有し、信頼し合うことを求めている」

私どもが、SDGsの挑戦にかける思いもまったく同じであります。

青年は、目の前の脅威への不安を感じなければ動けないような消極的な存在ではありません。一つ一つの課題に立ち向かう挑戦の中に分かち合う喜びがあり、希望があると信じるからこそ前に進んでいくのです。

SDGsには、目標達成を義務づける拘束力はないものの、2030アジェンダの題名に記されているように、そこには「私たちの世界を変革する」との希望が息づいています。

その希望を自らの誓いとして立ち上がる青年の行動が広がっていけば、全ての目標に前進のギアを入れる力を生み出すことができるのではないでしょうか。

私どもSGIは、今後も青年を中心に、地域の課題からグローバルな脅威にいたるまで、問題解決のためのプラスの連鎖を巻き起こす挑戦に取り組んでいく決意です。