2017年のSGI提言

難民が希望を取り戻す鍵は仕事や教育機会の確保に

第15段
難民が希望を取り戻す鍵は仕事や教育機会の確保に

レジリエンスを共に高める活動

市民社会の代表も数多く参加した世界人道サミットでは、人道と開発の取り組みを切り離さずに進めることや、難民の人々と受け入れ地域のレジリエンス(困難を乗り越える力)を高める重要性などが確認されました。

レジリエンスの強化は、私どもSGIが、「誰も置き去りにしない」世界を築くための柱として考えるもので、サミットで初開催した人道展「人間の復興――一人一人がつくる未来」でも強調した点です。

そこで私は、受け入れ地域のレジリエンスを向上させるために、難民の人々がSDGsの課題に関わる仕事などに共に携わることのできる道を開く「人道と尊厳のためのパートナーシップ」の枠組みを設け、国連を中心に推進することを提案したいと思います。

現在、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が支援する難民の86%は、紛争地域の周辺にある途上国に集中しています。

そうした国々は、貧困や保健衛生をはじめとするSDGsの課題に直面する一方、難民の受け入れに伴う問題も抱え、厳しい状況に置かれています。その打開には、サミットで確認されたように、人道と開発の取り組みを包括的に進めることが重要になります。

国連開発計画(UNDP)がエチオピアで進めてきたプロジェクトは、その一例ともいえましょう。

エチオピアでは、周辺国での相次ぐ紛争の影響で73万人もの難民を受け入れる中で、昨年、30年に一度といわれるほどの最悪の干ばつに見舞われました。そこでプロジェクトでは、自然資源の管理やインフラの復旧支援とともに、地域住民と難民との共存を図る活動に力を入れ、危機の悪化を防いできたのです。

難民が増加の一途をたどる状況下で、受け入れ国の安定と発展なくして、難民の人々の生活を安定させることはできません。

また、SDGsの課題を抱える点では、先進国や新興国も同じです。

DGsの達成に向け、食糧危機を防ぐための持続可能な農業をはじめ、再生可能エネルギーの導入に関わる仕事や、医療と保健衛生に携わる仕事など、さまざまな仕事が必要になると見込まれています。

国際労働機関(ILO)のガイ・ライダー事務局長は昨年、難民の人々にとっての仕事の重要性を踏まえて、難民のための「ニューディール」の考案を呼び掛けました。

私は、その一つの形として人道と開発をつなげ、難民の人々がSDGsに関わる仕事に携われるよう、国連と各国が協力し、技能習得や就労研修の機会を積極的に設けていってはどうかと提案したいのです。

受け入れ国での経験を復興の糧に

人間にとって仕事は、生活を支える経済的な糧となる大切なものです。そして同時に、生きがいの源泉となり、自分が生きている証しを社会に刻む営みでもあります。

仕事の確保は「社会正義の実現」に不可欠の要素と訴える、シドニー平和財団のスチュアート・リース前理事長も、私との対談で、こう強調していました。

仕事がない状態は、「何かを達成する満足を感じながら、もしくは社会に貢献しながら自身の生計を立てるという人間的感覚」を否定し、「人間の尊厳を根源から脅かす問題」になる、と(『平和の哲学と詩心を語る』第三文明社)。

その際、話題になったのが、1929年の世界恐慌による大量失業を解決するために、アメリカのルーズベルト大統領が始めたニューディール政策でした。

そこでは、ダムの建設事業に加え、国立公園の保全や植林をする市民保全部隊も結成され、部隊には約10年間で延べ300万人もの若者が従事しました。

20億本以上の木が植えられたほか、各地の国立公園の整備が進んだのです。

その仕事は、多くの若者にとって、社会や人々のために役立っているという〝手応え〟や〝誇り〟に直結するものでした。それだけでなく、整備された国立公園や森林は、現在にいたるまで生物多様性や生態系の保全に貢献し、温室効果ガスの吸収などの面でも役立っているのです。

こうした事例なども踏まえながら、難民の人々が仕事の機会をより多く得ることができ、SDGsの前進も後押しするような枠組みを検討すべきではないでしょうか。

何より、難民の人々は多くの苦しみや悲しみを味わってきたからこそ、さまざまな問題に苦しむ人々の力になれる存在です。

また、紛争が終結して帰国を果たせた時には、受け入れ国でのSDGsに関わる仕事の経験が、生まれ育った国の復興と再建の大きな原動力になっていくに違いありません。

折しも昨年9月、難民と移民に関する国連サミットで、「難民に関するグローバル・コンパクト」という新たな規範を来年に採択することが合意されました。

過去最大の人道危機となった難民問題の解決なくして、世界の平和と安定はなく、「誰も置き去りにしない」とのビジョンを掲げるSDGsを本格的に進めることもできません。

先のエチオピアでのプロジェクトなどを支援してきた日本が、国連が重視する「人道と開発をつなぐ活動」に今後も力を入れていくことの意義は大きいのではないでしょうか。

国連サミットの翌日に、オバマ大統領が主催したリーダーズ・サミットで、日本は、紛争の影響を受けた約100万人に教育支援や職業訓練を実施するほか、今後5年間で最大150人のシリア人留学生を受け入れることを表明しました。

そうした取り組みを基盤に、SDGsの推進につながる技能習得や就労研修の機会を設けるなど、「人道と尊厳のためのパートナーシップ」の先駆けとなる活動を積極的に進めてほしいと念願するものです。

大学の社会的使命

また、これに関連し、世界の大学が国連と連携して、難民の若者たちが教育機会を少しでも得られるよう、さまざまな形で後押しすることを呼び掛けたい。

7年前に始まった国連と世界の大学を結ぶ「国連アカデミック・インパクト」の取り組みには、120カ国以上の1000に及ぶ大学が加盟しています。

それらの大学が研究するテーマは、地球的な課題のほとんどを網羅しており、こうした世界の大学が持つ力を人類益のために発揮することが期待されます。

歴史を振り返れば、前半で触れた 、貧困に苦しむ人々のためのトインビー・ホールの活動を担ったのも、移民が尊厳を取り戻す支えとなったハル・ハウスで教育活動を行ったのも、大学の関係者たちでした。

大学には、社会の〝希望と安心の港〟としての力が宿っているのです。

その意味で、世界の大学が地球的な課題をめぐる研究での貢献とともに、出張講義や通信教育を含め、難民の若者の教育機会をさまざまな形で支えていくことの意義は、極めて大きいと思えてなりません。

私が創立した創価大学も、昨年5月、UNHCRと「難民高等教育プログラム」の協定を結び、今春から難民の留学生を受け入れることになっています。

昨年のリオデジャネイロ・オリンピックに出場した難民選手団の一員で、シリア出身のユスラ・マルディニ選手は、同じ難民の人たちに向けて次のような言葉を語っています。

「どんな困難も、嵐のような辛い日々も、いつかは落ち着く日が来る。難民になっても、夢や、やりたいと願っていたことをあきらめないで欲しい」(UNHCR駐日事務所のウェブサイト

紛争のために住み慣れた家を離れざるを得なくなり、見知らぬ場所で暮らすことになった難民の人々にとって、人間らしい生活の実感や、生きる希望の手応えを感じられるのは、仕事に就くことや教育の機会を得ることを通してではないでしょうか。

国連が採択を目指す「難民に関するグローバル・コンパクト」では、この仕事や教育の重要性を踏まえた内容を盛り込むことが大切ではないかと思います。

難民問題を解決する道は、難民の人々が安心と希望と尊厳を取り戻す中でこそ、大きく開いていくことができるからです。