2017年のSGI提言

「多様性」と「尊厳」守り合う社会へ 人権教育に関する条約を制定

第16段
「多様性」と「尊厳」守り合う社会へ 人権教育に関する条約を制定

暴力的過激主義をどう食い止めるか

最後に第三のテーマとして、「人権文化」の建設に関する提案を行いたい。

世界で今、長引く紛争や内戦に加えて、深刻な脅威となっているのが、相次ぐテロや暴力的過激主義の高まりです。

生きる意味や人生の希望を見いだせなくなった若者たちが、暴力的過激主義に引き込まれてしまう状況もみられます。

私が創立した戸田記念国際平和研究所は昨年11月、こうした暴力的過激主義の蔓延まんえんを防ぐための研究会議を、アメリカのイースタン・メノナイト大学で開催しました。

「処罰こそ暴力を防ぐ手段」との認識が各国で広がる中で、その有効性や課題について各地の事例を通して検証するとともに、緊張が続く地域で平和構築を進めるには何が必要かを探る会議となりました。

そこで焦点となったのは、暴力的過激主義が広がる背景に目を向け、予防に力を注ぐこと――つまり、人々の意識を暴力的な手段によらない問題解決の方向へ向ける努力を、社会に組み込むことの重要性です。

私は、その鍵を握るのが、人権教育の推進だと考えます。

昨年は、「人権教育および研修に関する国連宣言」の採択5周年にあたりました。

人権教育の国際基準を初めて定めた宣言で、SGIも起草段階から市民社会の声を届け、制定の支援をしてきたものです。

昨年9月に国連人権理事会で、宣言の採択5周年を記念する政府間会議が行われた際には、SGIの代表も参加しました。

席上、国連のケイト・ギルモア人権副高等弁務官は、各地で憎しみや暴力が広がる一方で、人権教育を通し、人々の行動を鼓舞する動きが見え始めていることは良いニュースであるとし、こう訴えました。

「人権教育は、私たちの個々の多様性を超えて、私たちの共通の人間性を育みます。それはオプションの追加でも、習慣化された義務でもありません。人間にとって根源的なことを教えてくれるものなのです」

人権教育の真価がどこにあるかを物語る言葉であり、私も深く共感します。

18億人の若者の大きな潜在力

政府間会議では、人権教育を通して一人の少女の身に起こった変化などの事例が紹介されました。

――一人の少女が、学校で人権教育を受け、自分の尊厳について深く考えるようになった。

以来、彼女の心に、自分の未来に対する自信と強さが宿り、周囲の状況に左右されることなく、彼女自身が変わっていった。

人権を踏みにじられる犠牲者ではなく、周りの人々の人権を守る存在になりたいと願うようになった――という話です。

ギルモア副高等弁務官は、こうした少女の姿こそ「人権意識の驚くべき力」を示すものであり、「教育こそ変革の促進剤」と強調しました。人権教育には、限りない力と可能性が秘められているのです。

私は、この変革の波をあらゆる場所で広げるために、人権教育に関する宣言を基盤に、「人権教育と研修に関する条約」の制定を目指し、実施手段の強化を図ることを提案したい。

世界人権宣言の採択から70周年を迎える来年を機に、例えば、「人権教育に関する国連と市民社会フォーラム」のような場を設けるなどして、条約制定に向けての議論を高めていってはどうでしょうか。

世界には、10歳から24歳までの若い世代が、18億人いるといわれています。

こうした若い世代が、暴力や争いではなく、人権を守る方向へと心を向けていくことができれば、人権教育に関する宣言が掲げる「多元的で誰も排除されない社会」への道は、大きく開けていくはずです。

その原動力となる人権教育を、各国で持続的に進めるためには、法律や教育プログラムを整備した上で、実施状況を定期的に評価し、改善する制度を設ける必要があります。

政府間会議で私どもSGIが、市民社会ネットワーク「人権教育2020」を代表する形で訴えたのも、その点でした。

世界人権宣言に始まる国際的な人権保障は、人権の規範設定や保護規定に続き、人権侵害の救済制度に力が注がれてきました。

そして今、焦点となっているのが、互いの多様性を大切にし合い、互いの尊厳を共に守り抜く「人権文化」を、社会に根付かせていくことです。

SGIでは、国連機関や関係団体の協力を得て、2月末からの国連人権理事会の会期にあわせて、新しい人権教育展示を開催する予定です。

この新展示などを通し、市民社会の側から「人権文化」建設の輪を力強く広げていきたい。そして、他のNGOと連携し、「人権教育と研修に関する条約」の制定に向け、国際世論を喚起したいと思います。