2018年のSGI提言

生きがいと尊厳を支える 高齢者人権条約を制定

第15段
生きがいと尊厳を支える 高齢者人権条約を制定

60歳以上の人口が世界で9億人に

続いて、現代社会の(しょう)()の課題として高齢者の人権に関する提案を行いたい。

国連によると、現在、60歳以上の人口は世界で9億人に達し、2030年には14億人になると予測されています。先進国を中心に少子高齢化が進む中、社会の急激な構造変化にどう対応するかが、多くの国で課題になっているのです。

昨年7月、国連で行われた「高齢化に関する公開作業部会」でも、このテーマを巡って議論が交わされました。

そこでは、世界人権宣言に「全ての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とにおいて平等である」とあるにもかかわらず、高齢者は生産性が乏しく社会的にも価値が低く、経済や若い世代の負担になるといった否定的な見方などがあるために、人権の享受が年齢とともに厳しくなっているのは明らかだとして、次のような問題提起がされました。高齢者の排除と差別につながる、こうした構造的な高齢者への差別や偏見をなくすために闘わなければならない――と。

そもそも高齢者の権利保護の重要性は、70年前、世界人権宣言が採択される直前に、アルゼンチンが提出した国連総会の決議で強調されていたものでした。しかし長い間、各国の関心は高まらず、1982年にウィーンで行われた第1回「高齢化世界会議」を機に国際的な議論が進められるようになったのです。

その成果として1991年に、「高齢者のための国連原則」として、独立、参加、ケア、自己実現、尊厳、の5項目が定められました。

重要だと思うのは、一人一人の意思を尊重する「独立」をはじめ、健康や生活面での保護を求める「ケア」や、差別や虐待から守る「尊厳」を、高齢者の人権の中核に据えながらも、それだけでは完結していない点です。

以前、ローマクラブ共同会長のエルンスト・U・フォン・ヴァイツゼッカー博士と、高齢者の生きがいについて語り合ったことがあります(『地球革命への挑戦』潮出版社)。

その中で博士は、自らの経験を通しながら、働き続けたいと願う高齢者のために社会環境を整えることは、社会全体にとっても良い結果をもたらすと強調していました。

私も同感であり、仕事に限らず、人々や社会のために何かをすることができたという日々の実感が、喜びと充実感につながるのではないかと述べました。

国連原則の残りの二つの「参加」と「自己実現」は、まさに高齢者の生きがいという面で欠くことのできない要素だと思えてならないのです。

人間の尊厳にとって〝周囲から大切にされること〟はもとより重要ですが、〝自分の存在が他の人々にとって、かけがえのない心の拠り所として受け止められること〟を通し、尊厳はその輝きをより増していくのではないでしょうか。そして、その人間同士のつながりの重みは、病気になったり、介護される身になった時でも、決して変わるものではありません。自分が今この場所で生きていること自体に、幸せや喜びを感じてくれる人が周囲にいることが、尊厳の源になるのです。

創価学会が3年前から開催してきた「平和の文化と希望展」でも、このテーマに焦点を当ててきました。

ともすれば、老いに対する社会のイメージが否定的になりがちであることを踏まえ、子どもたちや社会のために活躍する高齢者の姿を紹介しながら、高齢者の豊かな体験と知恵が生かされる社会と「平和の文化」の構築を呼び掛ける内容となっています。

2002年の第2回「高齢化世界会議」で打ち出され、昨年の国連の公開作業部会でも強調されたように、高齢者の人権を守る取り組みは、すべての年齢の人々を大切にし、いかなる差別も許さない人権文化の土壌を育むことにつながるものです。

そこで私は、公開作業部会でも議論された「高齢者人権条約」の制定に向けて交渉を早期に開始することを強く訴えたい。そして、世界で最も高齢化率が高い日本で、第3回「高齢化世界会議」を開催することを提唱したいと思います。

第2回の世界会議で合意された政治宣言と行動計画では、高齢者の経験は思いやりのある社会を築くための財産であり、高齢者は地域での日常的な役割だけでなく、災害などの緊急事態からの復興と再建で積極的な貢献を果たせることが強調されていました。

そのことは、東日本大震災からの復興に取り組む日本でも実感されてきた点であり、国連の会議で3年前に採択された「仙台防災枠組」では、社会の防災力を高めるために高齢者の参加が欠かせないことが明記されたところです。

「高齢者人権条約」の制定にあたっては、国連原則に基づく権利保護を確立するとともに、「エイジング・イン・プレイス」と呼ばれる〝高齢者が住み慣れた地域で、生きがいと尊厳をもって生き続けられるために何が必要か〟との点に立脚した規定を盛り込むべきではないでしょうか。

「多宝」の名称に込められた思い

私どもSGIでも、信仰に基づく活動の根幹として「体験談運動」を通し、さまざまな困難や課題を乗り越えた人生の物語を共有する場を積極的に設けてきました。

体験の重みに裏付けられた、その人でなければ語ることのできない言葉によって、多くの高齢者が、後に続く世代の人たちの心に勇気と希望を灯し続けてきたのです。

私が創価学会の高齢者のグループに「()(ほう)(かい)」という名前を贈ったのは、「高齢者のための国連原則」が採択される3年前(1988年)のことでした。

「多宝」の名称は、釈尊が説いた〝万人の尊厳〟の思想が真実であることを証明する存在として、法華経に登場する多宝如来に由来するものです。法華経では、世界の宝を集めたような宝塔が出現する場面がありますが、その中から現れるのが多宝如来なのです。

私は、そうした意義を込め、信仰と人生の年輪を重ねてきた大切な同志のグループに、「多宝会」の名前を贈りました。以来、多宝会のほかに(ほう)寿(じゅ)会や(きん)(ぽう)会が結成され、ドイツでは「ゴールデナー・ヘルプスト」((きん)(しゅう)会)、オーストラリアでは「ダイヤモンドグループ」などのグループがありますが、高齢者の同志は信仰の面でも社会的な面でも〝宝〟の存在となっているのです。

人間が生きる上で避けて通れない「生老病死」の悩みを乗り越えてきた信仰の息吹を語ってきたのも、戦争体験や被爆証言などを通してSGIの「平和運動の精神の継承」でかけがえのない役割を担ってきたのも、地域の歴史や人々のつながりを深く知り、「災害からの復興」において励まし合いの輪を支えてきたのも、高齢者の同志でした。

今後もSGIとして体験談運動をはじめ、戦争と災害の教訓を語り継ぐ活動に力を入れるとともに、他のFBOと協力してシンポジウムなどを開催しながら、高齢者の人権と尊厳を守る社会の潮流を高めていきたいと思います。