2020年のSGI提言

核兵器禁止条約を早期に発効し 被爆地で「民衆フォーラム」を開催

第10段
核兵器禁止条約を早期に発効し 被爆地で「民衆フォーラム」を開催

続いて、誰もが尊厳をもって安心して生きられる「持続可能な地球社会」の建設に向けて、4項目の具体的な提案を行いたい。

第一の提案は、核兵器禁止条約に関するものです。

広島と長崎への原爆投下から75年にあたる本年中に、核兵器禁止条約を何としても発効に導き、〝核時代と決別する出発年〟としていくことを強く呼び掛けたい。

2017年7月の採択以来、これまで80カ国が署名し、35カ国が批准を終えました。条約発効に必要となる「50カ国の批准」を早期に実現するために、参加国の拡大の勢いを増していくことが求められます。 

こうした中、アメリカとロシアの間で核軍縮の礎石となってきた中距離核戦力(INF)全廃条約が失効するなど、核軍拡競争が、今再び激化しようとしています。

国連軍縮研究所のレナタ・ドゥワン所長が「核兵器が使われるリスクは第2次世界大戦後で最も高い」と警告するような状況に直面しており、核兵器禁止条約の発効をもって明確な楔を打ち込むことが急務であると思えてなりません。

世界の方向性を形づくる国際規範

現在のところ、核兵器禁止条約には核保有国や核依存国は加わっていませんが、発効によって打ち立てられる〝いかなる場合も核兵器の使用を禁止する〟との規定には、非常に大きな歴史的意義があります。

そこには何より、広島と長崎の被爆者をはじめ、核開発や核実験による被害を受けた世界のヒバクシャが抱き続けてきた〝二度と同じ苦しみを誰にも経験させたくない〟との誓いが凝縮されています。

その上、国連のグテーレス事務総長が核兵器の完全な廃絶は「国連のDNA」であると強調しているように、1946年に初開催された国連総会での第1号決議で核兵器の廃絶が掲げられて以来、核問題の解決を求める決議が何度も積み重ねられる中で、ついに実現をみたのが核兵器禁止条約だったからです。

また、核兵器禁止条約への署名と批准の広がりは、50年前(1970年3月)に発効した核拡散防止条約(NPT)と比べても、さほど変わるものではありません。

NPTの発効時の署名国は97カ国で、批准国は47カ国にすぎませんでした。

それでも、NPTを通じて〝核兵器の拡散は許されない〟との規範意識が次第に定着していく中で、核兵器の保有を検討していた国の多くが非核の道を選び取ったほか、南アフリカ共和国のように、一時は核兵器を開発して保有しながらも自発的に廃棄を果たし、NPTの枠組みに加わった国まで現れました。

核兵器の拡散防止も、NPTが発効するまでは「理想」の段階にとどまっていた。しかし、ひとたび条約が発効し、批准国が拡大することで、世界のあり方を大きく規定する「現実」へと変わっていったのです。

このように、最初の段階で締約国が十分な広がりを見せていなかったとしても、条約の発効には世界の新しい方向性を明確に形づくる影響力があるといえましょう。

新たな国際規範を設けることの意義について論じた興味深い考察があります。

核兵器禁止条約に先駆けて、核廃絶を実現するための草案としてモデル核兵器条約を97年に起草した、メラフ・ダータン氏とユルゲン・シェフラン氏は、論考の中でこう述べています。

「国際法と国際関係との領域の区分が、理想と現実とのギャップを示しているとすれば、モデル核兵器条約は理想を形にしたもので、NPTは現実を表しているといえよう」

「核兵器禁止条約は、この理想と現実の両方を体現したものだ。核兵器国の署名がまだないために理想ともいえるが、条約が存在するという点において現実である」と。

その上で両氏は、「条約への反対や軍縮への抵抗が実際にあるとしても、規範の価値とその発展を打ち消すものではない」と強調していますが、私も深く同意するものです。

今後の焦点となるのは、条約の発効によって打ち立てられる〝いかなる場合も核兵器の使用を禁止する〟との規定に対し、どの国であろうと揺るがすことのできない重みを帯びさせることではないでしょうか。

ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の国際運営団体の一つである「ノルウェー・ピープルズエイド」の昨年の報告書によると、核兵器禁止条約を支持する国々は135カ国にのぼるといいます。

加えて各国の自治体の間でも、条約の支持を表明する動きが広がっています。

2年前に始まった「ICANシティーズ・アピール」には、核保有国のアメリカ、イギリス、フランスをはじめ、核依存国のドイツ、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、イタリア、スペイン、ノルウェー、カナダ、日本、オーストラリアのほか、スイスの自治体が加わっています。

その中には、核保有国の首都であるワシントンDCやパリに加え、核依存国の首都であるベルリン、オスロ、キャンベラも含まれているのです。

また昨年10月には、すべての国に核兵器禁止条約への加盟を求める「ヒバクシャ国際署名」が国連に提出されました。

広島と長崎の被爆者の呼び掛けで4年前に始まった活動で、創価学会平和委員会も運営団体として参画してきましたが、核保有国や核依存国を含む多くの国から1051万人の署名が寄せられたのです。

このようにさまざまな形で表れているグローバルな民意を、さらに力強く結集する中で、〝核兵器の禁止の規範化〟を大きく前に進めることが重要ではないでしょうか。

どの国の民衆にも惨害を起こさない

そこで提案したいのは、核兵器禁止条約の発効後に行われる第1回締約国会合を受ける形で、世界のヒバクシャをはじめ、条約を支持する各国の自治体やNGO(非政府組織)の代表らが参加しての「核なき世界を選択する民衆フォーラム」を、広島か長崎で開催することです。

「核なき世界を選択する民衆フォーラム」の開催を提案したのは、〝どの国の民衆にも核兵器の惨害を起こしてはならない〟との共通認識に基づく議論を民衆自身の手で喚起\(かんき\)することが、核兵器の禁止を「グローバルな人類の規範」として根付かせるために欠かせないと考えるからです。

唯一の戦争被爆国である日本が、核兵器の非人道性を巡る国際的な議論をさらに深めるための努力を重ね、核保有国と非保有国の橋渡しの役割を担うことを切に望むものです。

過去70年以上にわたって厚い壁に覆われ続けていた、核兵器禁止条約の交渉開始への突破口を開いたのは、2013年から3回にわたって開催されてきた「核兵器の人道的影響に関する国際会議」でした。 

そこでの議論を通じて浮かび上がったのが、次のような重要な観点です。

①いかなる国も国際機関も、核爆発によって引き起こされた直接的被害に適切に対処し、被害者を救援するのは困難であること。

②核爆発の影響は国境内に押しとどめることは不可能で、深刻で長期的な被害をもたらし、人類の生存さえ脅かしかねないこと。

③核爆発による間接的な影響で社会・経済開発が阻害され、環境も悪化するために、貧しく弱い立場に置かれた人々が最も深刻な被害を受けること。

このように、「核兵器で守ろうとする国家の安全」ではなく、「核兵器の使用によって被害を受ける人間」の側から問題の所在が明らかにされていく中で、核兵器禁止条約の交渉開始のうねりが高まっていったのです。