2020年のSGI提言

新START(新戦略兵器削減条約)の延長を基盤に保有5カ国で核軍縮条約を

第12段
新START(新戦略兵器削減条約)の延長を基盤に保有5カ国で核軍縮条約を

NPT再検討会議で実現すべき合意

次に第二の提案として、核軍縮を本格的に進めるための方策について述べたい。

具体的には、4月から5月にかけてニューヨークの国連本部で行われるNP再検討会議で、「多国間の核軍縮交渉の開始」についての合意と、「AI(人工知能)などの新技術と核兵器の問題を巡る協議」に関する合意を最終文書に盛り込むことを呼び掛けたいと思います。

一つ目の合意については、アメリカとロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)の延長を確保した上で、多国間の核軍縮交渉の道を開くことが肝要となると考えます。

新STARTは、両国の戦略核弾頭を1550発にまで削減するとともに、大陸間弾道ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイルなどの配備数を700基にまで削減する枠組みで、明年2月に期限を迎えます。

5年間の延長が可能となっていますが、協議は難航しており、INF全廃条約に続いて新STARTの枠組みまで失われることになれば、およそ半世紀ぶりに両国が核戦力の運用において〝相互の制約を一切受けない状態〟が生じることになります。

この空白状態によって生じる恐れがあるのは、核軍拡競争の再燃だけではありません。

今後、小型の核弾頭や超音速兵器の開発が加速することで、局地的な攻撃において核兵器を使用することの検討さえ現実味を帯びかねないとの懸念の声も上がっています。

ゆえに、新STARTの5年延長を確保することがまずもって必要であり、NPT再検討会議での議論を通して、核兵器の近代化に対するモラトリアム(自発的停止)の流れを生み出すことが急務だと訴えたい。その上で、「次回の2025年の再検討会議までに、多国間の核軍縮交渉を開始する」との合意を図るべきではないでしょうか。

50年にわたるNPTの歴史で、核軍縮の枠組みができたのはアメリカとロシアとの2国間だけであり、多国間の枠組みに基づく核軍縮は一度も実現していません。

NPTはすべての核兵器国が核軍縮という目標を共有し、完遂を誓約している唯一の法的拘束力のある条約であることを、今一度、再検討会議の場で確認し合い、目に見える形での行動を起こす必要があります。

具体的な進め方については、さまざまなアプローチがあるでしょうが、私はここで一つの試案を提示しておきたい。 

それは、「新STARTの5年延長」を土台にした上で、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5カ国による新たな核軍縮条約づくりを目指し、まずは核軍縮の検証体制に関する対話に着手するという案です。

これまでアメリカとロシアが実際に行ってきた検証での経験や、多くの国が参加して5年前から継続的に行われてきた「核軍縮検証のための国際パートナーシップ」での議論も踏まえながら、5カ国で核軍縮を実施するための課題について議論を進めていく。

その上で、対話を通じて得られた信頼醸成を追い風にして、核兵器の削減数についての交渉を本格的に開始することが望ましいのではないかと思います。

共通の安全保障の精神を顧みる

多国間の核軍縮の機運を高めるために重要な鍵を握ると考えるのは、冷戦終結の道を開く後押しとなった「共通の安全保障」の精神を顧みることです。

1982年6月に行われた国連の第2回軍縮特別総会に寄せて、スウェーデンのパルメ首相らによる委員会が打ち出したもので、〝核戦争に勝者はない〟との認識に基づいて、次のような意識転換が促されていました。

「諸国家はもはや、他国を犠牲にして安全性を追求することはできない。すなわち相互協力によってしか、安全は得られない」(『共通の安全保障』森治樹監訳、日本放送出版協会)と。

私もその時、第2回軍縮特別総会に向けた提言で、「膨大な核戦力が対峙している以上、いかに軍事力を増強させようと、とうてい真の平和は保ちえない」と訴えていただけに、深く共感できる考え方でした。

その前年(81年)、アメリカとソ連の関係が厳しさを増す中で、レーガン大統領は対決姿勢を鮮明にし、ヨーロッパでの限定核戦争もあり得るとまで発言していました。

当時の心境について、レーガン大統領はこう記しています。

「われわれの政策は、力と現実主義に基づいたものでなければならない。私が望んだのは力を通じての平和であって、一片の紙切れを通じての平和ではなかった」(『わがアメリカンドリーム』尾崎浩訳、読売新聞社)と。

しかし、欧米諸国の市民による反核運動の高まりがあり、核兵器の使用がもたらす壊滅的な被害に対する認識も深めるにつれて、レーガン大統領は〝核戦争を起こしてはならない〟との思いを強めていった。

また、核兵器で対峙するソ連の人々がどんな気持ちを抱いているかについて思いを馳せる中で、ソ連のチェルネンコ書記長に手紙を送った時のことを回想し、こう綴っていました。

「チェルネンコへの手紙の中で私は、直接的、かつ内密に交信することはわれわれ双方にとって利益があると思っている、と述べた。そして俳優時代になじんだ感情移入のテクニックを使うように努めた」「そしてソ連国内の一部の人は、わがアメリカを本当に恐れているようだと私は理解している、と続けた」(同)

こうした想起を通して、相手側の不安と自国側の不安とが〝鏡映し〟であることを実感したレーガン大統領が、ソ連との対話を模索する中で実現したのが、85年11月にジュネーブで行われたゴルバチョフ書記長との首脳会談だったのです。

同じく核問題の解決の必要性を強く認識していたゴルバチョフ書記長と、胸襟を開いた対話を続けた結果、両首脳による共同声明として世界に発信されたのが、「核戦争に勝者はなく、また、核戦争は決して戦われてはならない」との有名なメッセージでした。

そこには「共通の安全保障」に通じる考え方が脈打っており、それが87年12月のINF全廃条約の締結へとつながり、冷戦を終結させる原動力ともなっていったのです。

時を経て再び、核兵器を巡る緊張が高まり、〝新冷戦〟とまで呼ばれる状況に世界が直面する今、「共通の安全保障」の精神を呼び覚ますことが大切ではないでしょうか。

ゆえに私は、NPT発効50周年を迎えるにあたり、「核戦争に勝者はなく、また、核戦争は決して戦われてはならない」との宣言を、NPTの締約国の総意として今回の再検討会議の最終文書に明記することを提案したい。

国連が2018年5月に発表した軍縮アジェンダでも、「人類を救うための軍縮」との視座が打ち出されていました。作成に携わった国連の中満泉・軍縮担当上級代表は、その発表翌日に行ったスピーチで、軍縮と安全保障との関係について、こう述べています。

「軍縮は、国際平和と安全保障の原動力であり、国家の安全保障を確保するための有用な手段である」

「軍縮はユートピア的な理想ではなく、紛争を予防し、いついかなる時、場所であれ、紛争が起こった際に、その影響を緩和するための具体的な追求である」と。

自国の安全保障を確保するための「有用な手段」として核軍縮の交渉を進め、他の国々が感じてきた脅威や不安を取り除くことで、自国が他国から感じてきた脅威や不安を取り除いていく――。

NPT第6条が求める核軍縮の誠実な履行を、こうした互いが勝者となる〝ウィンウィンの関係〟を基盤として、今こそ力強く推進していくべきであると訴えたいのです。