2020年のSGI提言

「教育のための国際連帯税」を創設し人道危機下の子どもたちを支援

第16段
「教育のための国際連帯税」を創設し人道危機下の子どもたちを支援

紛争や災害での心の傷を癒やす

最後に第四の提案として述べたいのは、紛争や災害などの影響で教育の機会を失った子どもたちへの支援強化です。

持続可能な地球社会を目指すといっても、次代を担う子どもたちの人権と未来を守ることが要石となると考えるからです。

本年9月に発効30周年を迎える、子どもの権利条約は、今や国連の加盟国数よりも多い196カ国・地域が参加する、世界で最も普遍的な人権条約となりました。

教育の権利の保障も明記される中、条約の発効時には約20%に及んでいた、小学校に通う機会を得られていない子どもの割合は、今では10%以下にまで減少しました。

しかしその前進の一方で、紛争や災害の影響を受けた国で暮らす子どもたちの多くが深刻な状況に直面しています。

例えば、紛争が続く中東のイエメンでは240万人の子どもたちが学校に通うことができず、学校施設も攻撃を受けてひどく損傷していたり、軍事拠点や避難場所に使用されたりしている所が数多くあります。

また、気候変動の影響による災害が続くバングラデシュでは、多くの家族が貧困や避難生活に追い込まれる中で、子どもたちの健康が危ぶまれているほか、教育の機会が失われている状態が広がっています。

世界では、こうした紛争や災害の影響で教育の機会を失った子どもや若者の数は1億400万人にも及んでいますが、人道支援の資金の中で教育に配分されるのは2%ほどにとどまってきました。

食糧や医薬品などの物資の支援と比べて、〝人命には直接関わらない〟といった理由で、緊急事態が起きた直後の期間のみならず、復興に向けた歩みが始まった時期以降も、後回しにされがちになってきたからです。

しかし、ユニセフ(国連児童基金)が強調するように、子どもたちにとって学校の存在は、日常を取り戻すための大切な空間にほかなりません。学校で友だちと一緒の時間を過ごすことは、紛争や災害で受けた心の傷を癒やすための手助けにもなります。

こうした問題を踏まえて、4年前の世界人道サミットで設立をみたのが、ユニセフが主導するECW(教育を後回しにはできない)基金でした。

緊急時の教育に特化した初めての基金であり、現在まで、人道危機に巻き込まれた190万人以上の子どもや若者たちに教育の機会を提供する道を開いてきました。

緊急時の教育支援は、人道危機が長期化した場合の教育支援とともに、子どもたちが安心と希望を取り戻し、将来の夢を思い描いて前に進むためのかけがえのない基盤となるだけでなく、地域や社会にとっても平和と安定をもたらす源泉となるものです。

ECW基金のヤスミン・シェリフ事務局長は、こう述べています。

「もし、その社会の市民と難民の人々が、読み書きができず、論理的な思考ができず、教師や弁護士や医師もいない場合、どうやって社会経済的に発展可能な社会を築くことができるというのでしょうか」

「教育は、平和と寛容と相互尊重を促進するための鍵です。女の子と男の子が教育に平等にアクセスできた場合には、暴力や紛争が発生する確率は37%も減るのです」と。

「失われた世代」を生み出さない

国連のSDGで〝すべての子どもたちに質の高い教育を〟との目標が掲げられる中、紛争や災害の影響を受けた国で暮らす子どもたちが、「失われた世代」として置き去りになるようなことは、決してあってはならない。

ECW基金が設立された2016年の時点での推計では、人道危機に見舞われた7500万人の子どもたちに基礎教育を提供するには毎年85億ドル、1人あたりで年間113ドルが必要になると見込まれていました。

現在、その対象人数は1億400万人に及び、必要額も増えているものの、世界全体の1年間の軍事費である1兆8220億ドルのほんの一部に相当する資金を国際的な支援などで確保できれば、厳しい状況にある多くの子どもたちが、希望の人生を歩み出すきっかけを得られるのです。

その意味で私は、誰もが尊厳をもって安心して生きられる持続可能な地球社会を築くための挑戦の一環として、ECW基金の資金基盤の強化を図り、緊急時の教育支援を力強く進めていくことを呼び掛けたい。

かつて私は2009年の提言で、国連が当時進めていた「ミレニアム開発目標」の達成を後押しするために、国際連帯税などの革新的資金調達メカニズムの導入を促進することを提唱したことがあります。

SDGsの推進において、その必要性はさらに増しており、「教育のための国際連帯税」の創設をはじめ、資金基盤を強化するための方策を検討すべきではないでしょうか。

これまで連帯税としては、フランスなどの国々が導入している航空券連帯税があり、エイズや結核やマラリアの感染症で苦しむ途上国の人々を支援するための国際的な資金に充てられてきました。

また5年前からは、発育阻害に苦しむ子どもたちを支援する国連の「ユニットライフ」の枠組みが進められています。

日本も昨年、開発のための革新的資金調達メカニズムのあり方を討議するリーディング・グループの議長国を務める中、7月に行われたG7(主要7カ国)開発大臣会合で、国際連帯税を含む革新的資金調達を活用する必要性について言及しました。

これまで日本は、内戦が続く中東のシリアで、ユニセフと連携して約10万人の小学生のために教科書を配布し、約6万2000人の子どもたちに文房具と学校用のカバンを支給してきました。またアフガニスタンでも、支援が不足しがちだった地域で70校の学校を建設し、約5万人の子どもたちが学習にふさわしい環境で授業を受けられるようになっています。 

私は、教育分野の支援において豊かな実績を持つ日本が、「教育のための国際連帯税」をはじめ、さまざまなプランを検討する議論をリードしながら、ECW基金の資金基盤を強化するための枠組みづくりで積極的な役割を担うことを強く呼び掛けたいのです。

避難した先で教育の機会を得ることが、子どもと家族の心にどれだけ希望を灯すのか。

その一つの例を国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が紹介しています。

――中米のニカラグアで2人の子どもと暮らしていたある母親は、情勢不安が続く中、葛藤を抱きながら隣国コスタリカへの避難を決めた。「学校を辞めさせ、避難することは苦しい決断でした。でも、これ以上危険な目にあわせるわけにはいかなかった」と。

学校に在学証明書を取りに行くのも危険な中、小さなカバン一つで避難しなければならなかったため、子どもたちは避難先で学校に通うことができるだろうかと胸を痛めていたところ、コスタリカではすべての子どもに無償の初等教育が保障されていた。

特に、避難民がいるコスタリカ北部の小学校の多くでは、公的な書類がなくても入学でき、避難で学習が遅れてしまった子どものために補習などのシステムまで用意されていた。

そのおかげで、2人の子どもたちも教育の機会を取り戻すことができた。

14歳の兄は、「今一番うれしいことは勉強できること。将来はお医者さんになりたい」と目を輝かせ、10歳の妹と手をつないで元気に学校へ通うようになった。

学校の教員も、「故郷を離れなければならなかった子どもたちが、学校を家のように感じられるようになれば」との思いで迎え入れている――と。(UNHCR駐日事務所のウェブサイトを引用・参照

人道危機によって教育の機会を失った1億400万人という膨大な数字の奥には、一人一人の子どもの存在があり、人生の物語があります。

この子どもたちにも同様に教育の機会が確保されれば、彼らが生きる希望を取り戻し、夢に向かって進むための足場となるに違いないと訴えたいのです。