2021年のSGI提言

統計的な数字の奥にある「命の重み」を見失わない

第2段
統計的な数字の奥にある「命の重み」を見失わない

パンデミックの宣言以降の日常

第一の柱として挙げたいのは、〝危機の日常化〟が進む中で、孤立したまま困難を深めている人々を置き去りにしないことです。

昨年の3月11日に世界保健機関(WHO)が新型コロナのパンデミックを宣言して以来、毎日のニュースで感染者や亡くなった人たちの数が報じられるようになりました。

いまだ感染拡大の勢いは止まらず、収束の見通しは立っていませんが、連日、更新されている数字の意味を見つめ直すために、今一度、思い起こしたい言葉があります。

パンデミック宣言の1週間後に、ドイツのアンゲラ・メルケル首相がコロナ危機を巡る演説で語った次の一節です。

「これは、単なる抽象的な統計数値で済む話ではありません。ある人の父親であったり、祖父、母親、祖母、あるいはパートナーであったりする、実際の人間が関わってくる話なのです。そして私たちの社会は、一つひとつの命、一人ひとりの人間が重みを持つ共同体なのです」(駐日ドイツ連邦共和国大使館・総領事館のウェブサイト)

もとより、こうした眼差しを失わないことの大切さは、巨大災害が起こるたびに、警鐘が鳴らされてきた点でもありました。

しかし、今回のパンデミックのように、世界中の国々が脅威にさらされる状態が長引き、〝危機の日常化〟ともいうべき現象が広がる中で、その緊要性がいっそう増していると思えてなりません。

私どもSGIでも、感染防止の取り組みを徹底するとともに、日々の祈りの中でコロナ危機の早期の収束を強く念じ、亡くなった人々への追善の祈りを重ねてきました。

また、私が創立したブラジルSGIの「創価研究所――アマゾン環境研究センター」では、新型コロナで亡くなった人々への追悼の意を込めて植樹を行う「ライフ・メモリアル・プロジェクト」を昨年9月から進めています。

一本一本の植樹を通して、これまでブラジルの大地で共に生きてきた人々の思いと命の重みをかみしめ、その記憶をとどめながら、アマゾンの森林再生と環境保護にも寄与することを目指す取り組みです。

亡くなった人々を共に悼み、その思いを受け継いで生きていくことは、人間社会を支える根本的な基盤となってきたものでした。

感染拡大が続く中で、故人を共に追悼する場を得ることが難しくなっている今、統計的な数字の奥にある「一つひとつの命」の重みを見失わないことが、ますます大切になっていると痛切に感じられてならないのです。

社会の表面から埋没する窮状\(きゅうじょう\)

この点に加えて、〝危機の日常化〟に伴って懸念されるのは、各自の努力で身を守ることが求められ、社会の重心がその一点に傾いていく中で、弱い立場にある人々の窮状\(きゅうじょう\)が見過ごされがちになる恐れについてです。

パンデミックに立ち向かうために、各国では医療体制の支援を最重要課題に掲げるとともに、「ニューノーマル(新しい日常)」が呼び掛けられる中、社会を挙げて取り組むべき対策が模索されてきました。

直接的な接触を避けるために一定の距離を確保する「ソーシャル・ディスタンス」をはじめ、在宅での仕事の推奨とオンライン授業の導入などによる「リモート化」や、不要不急の外出を控える「ステイホーム」の推進などに代表されるものです。

この呼び掛けを通し、急激な感染拡大を抑え、医療現場の逼迫\(ひっぱく\)を防ぐための取り組みが広がってきた意義は大きいと思います。

なかでも、感染防止策の呼び掛けに対して、積極的に工夫や改善を試みる人が増えてきたことは、単なるリスク対策の域を超える可能性を秘めたものでもあったのではないかと、私は感じています。

その行為は、まずもって大切な家族や身近な人々を守ることに直結していますが、同時にそれは、同じ社会に生きる〝見知らぬ大勢の人たちを守るための気遣い〟を積み重ねる行為にもなってきたと思えるからです。

しかし一方で、コロナ危機が始まる以前から弱い立場に置かれてきた人や、格差や差別に苦しみながらも、〝社会的なつながり〟によって支えられてきた人たちの生活や尊厳に、深刻な影響が生じている側面にも目を向ける必要があるのではないでしょうか。

例えば、「ソーシャル・ディスタンス」が重要といっても、日常的な介助を必要とする人たちにとって、周囲のサポートが普段よりも制限されることになれば、毎日の生活に重大な支障が出ることになります。

それは、自分を支えてくれる人たちとの大切な時間を失い、〝尊厳ある生〟を築く土台が損なわれることも意味します。

また、仕事や教育から買い物にいたるまで、オンラインによる「リモート化」が急速に進んできたものの、経済的な理由などでインターネットに接続する環境を持つことが困難な人や、オンラインの活用に不慣れな人たちが取り残されていく状況も課題となっています。

加えて、外出制限による「ステイホーム」が長引く中で、家庭内暴力(DV)に苦しむ女性たちが急増したことが報告されています。

なかには、暴力をふるう相手が家にいる時間が長くなったために、行政や支援団体に連絡をとって相談する道まで塞がれている女性も少なくないとみられているのです。

ゆえに大切になるのは、感染防止策に取り組む中で社会に広がってきた〝見知らぬ大勢の人たちを守るための気遣い〟を基盤としながら、コロナ危機が日常化する中で、社会の表面から埋没しがちになっている「さまざまな困難を抱えた人たち」の存在に目を向け、その苦しみと生きづらさを取り除くことを、社会を立て直すための急所として位置付けていくことではないでしょうか。