2021年のSGI提言

社会的保護の拡充をはじめ 経済と生活の再建が急務

第16段
社会的保護の拡充をはじめ 経済と生活の再建が急務

第2次大戦以降で最悪の景気後退

第三の提案は、コロナ危機からの経済と生活の立て直しに関するものです。

これまで世界経済は、通貨危機をはじめ、オイルショックや金融危機などが引き金となり、何度も景気後退に見舞われてきましたが、今回のコロナ危機はそれらをはるかに凌駕\(りょうが\)する規模の打撃をもたらしています。

世界銀行によると、第2次世界大戦以降で最悪の景気後退が生じているといいます。

そうした中で、ほとんどの業種で収益が急激に悪化し、かつてないほど多くの人々が一斉に仕事を失ったり、所得の大幅な減少を強いられたりする状況が起きています。

パンデミックの影響によって世界の労働者の約半数にあたる16億人もの人々が生計手段を著しく破壊された恐れがあると、国際労働機関(ILO)が警鐘を鳴らすほど、経済危機は深刻さを増しているのです。

いくつかの国では、人々の生活を支えるための臨時給付などの緊急対策が打ち出され、昨年9月のG20(主要20カ国)の労働雇用大臣会合でも、「全ての労働者とその家族を支える強固な社会的保護制度の必要性が高まっている」との共通認識が示されました。

社会的保護とは、一人一人の生涯にわたって、貧困や病気や失業などで厳しい状況に陥った時に、その影響を軽減させるための政策や取り組みを指すもので、「世界人権宣言」でも\(うた\)われている人権の一つです。

かつて2008年に世界金融危機が起こり、多くの人々が雇用や保健や教育などの面で打撃を受けた時に、国連が2009年に立ち上げたのが、生活基盤の保障の確保を目指す「社会的保護の床」の取り組みでした。

私は2013年の提言で、この取り組みを強く支持した上で、特に若者たちの仕事を巡る状況が厳しさを増していることを踏まえ、次のように呼び掛けたことがあります。

「若者たちが希望を持てない社会に、持続可能な未来など描けるはずもなく、人権文化を育む気風が根づくこともありません。ゆえに、『社会的保護の床』の確保こそ、持続可能性と人権文化の大前提であるとの意識で取り組むべきだと訴えたい」と。

そして、当時、国連で検討が進められていたSDGsの目標の中に、「極度の貧困に苦しむ人々が尊厳ある生を取り戻すための『社会的保護の床』を全ての国で整備すること」を盛り込むよう、提唱しました。

これと相通じる趣旨の内容はSDGsでも掲げられるようになりましたが、世界金融危機の時よりも格段に深刻な状況が広がり、これまで安定した生活を送っていた人たちも含め、大勢の人々が突然の困窮にさらされる中、「社会的保護の床」を整備することが急務となっていると思えてなりません。

マルチハザードの観点に立った政策

その重要性は、37カ国で構成される経済協力開発機構(OECD)においても共通認識となってきています。

昨年5月に発表された「コロナウイルス危機下の生活支援」と題する報告では、多数の労働者とその家族が貯蓄を取り崩すなどの対応を迫られており、現在と将来の健康や生活が危険にさらされているとして、次のような認識が示されていました。

「前例のない規模の危機であることから、短期的な課題に留まるものではなく、その対応には、今後何カ月、場合によっては何年にも及ぶ、持続的な政策努力が求められるであろう。支援プログラムを可能な限り効果的かつ持続可能なものとするためにはどうすればよいか、熟慮が求められる」(OECDのウェブサイト)と。

歴史を遡れば、OECDは、戦後の混迷が続くヨーロッパ諸国の復興を支援するために、アメリカが1948年に始めた「マーシャル・プラン」の受け入れ体制を整備する目的で設立された組織が母体となったものでした。

現在では、各国の数多くの専門家を擁する世界最大の「シンク・タンク」にまで発展し、その特色の一つは、各国の取り組みを相互審査する活動などを通じて政策の“世界標準”を醸成していく点にあります。

特に近年は、活動を通してまとめた政策提言を具体的な実行に移すことが重視されており、実行を意味する英語の“ドゥー(do)”を加える形で、OECDは自らを「シンク・ドゥー・タンク」と位置付けるようになっています。