YOUTH コラム

「多崎つくる」が放つメッセージ

「多崎つくる」が放つメッセージ

村上春樹氏の新作『色彩を持たない 多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋刊)が2013年4月12日の発売後、わずか7日で8刷100万部を突破した。

同書の主人公「多崎つくる」は36歳の独身。子どものころから鉄道の「駅」が好きで、現在は、鉄道会社で駅の設計に携わる。多崎はかつて、「仲良し5人組」に属していたが、20歳のある日、そのグループから理由を明かされることなく、一方的に追放される。以来、「強く死に引き寄せられるようになった」と語るほど、彼は生きる希望を見失った。そんな多崎にとって「駅」だけが、唯一の心の拠り所となった。

16年の時を経て、今もなお〝心の傷〟を誰にも打ち明けられずにいた多崎。しかし、ある女性との出会いを契機に、かつての仲間を一人ずつ訪ね、追放された理由を解き明かす「巡礼の旅」に出る。次々と明らかになる真実。物語では終始、多崎の心の葛藤や逡巡が繊細に描かれ、読者の心をぐっと引きつける。

挿絵

主人公の姿は、現代社会を生きる私たちの姿とも重なる。一見、何不自由なく生きているようにみえても、人間関係の悩みや過去の〝トラウマ〟を抱え、孤独の中でもがいている様子が、多くの読者の共感を得ているのかもしれない。

ある調査では、若者の友人関係について「なるべく揉め事を避け、ある一定の距離感を保って友人関係を構築していることがうかがえる」と分析している。「KY」という言葉に象徴されるように、現代は互いに「空気を読み」合い、本音でぶつかり合うことを避ける傾向にある。

挿絵

翻って創価学会は、対話を通して人と人の心を結び、地域に信頼の絆を広げてきた。学会員は自らの幸せだけではなく、他人の幸せも本気で考えて、率先して行動している。友の悩みに寄り添い、同苦しながら、本音でぶつかり合う中で、多くの人々が心を通わせてきた。まさしく学会には、「人間の温かさ」があふれている。

ある友人は語っていた。「今まで、僕の携帯電話には、500人の友人の連絡先が登録されていた。でも、その中で、真剣に話し合える人は、一人もいなかった。学会員の皆さんと出会ってから、本当に心を開ける親友が増えた」と。

挿絵

互いに心を開き、分かり合うにために、自ら声を掛ける勇気も必要だ。だが、現代人の多くは、自身が傷つくことを恐れ、その一歩を踏み出すことすら、ためらっているように思う。

物語の終盤、かつての「5人組」の友人の一人が、多崎に語り掛ける言葉がある。

「君にかけているものは何もない。自信と勇気をもちなさい。君に必要なのはそれだけよ」――この言葉に、現代を生きる人々へのメッセージが凝縮されているように感じた。(探)