YOUTH コラム

「苦悩を突き抜けて歓喜へ――今こそ『音楽の力』を発揮する時」

「苦悩を突き抜けて歓喜へ――
      今こそ『音楽の力』を発揮する時」

長引くコロナ禍の影響で、文化・芸術運動が制限される中にあって、少しずつコンサートや演奏活動が再開されていることを、ただただ嬉しく思う。

生演奏を届けることも、楽団員が集まって楽器を奏でることもできなくなった、この一年半。音楽に携わる人々は、世代を超えてつないできた〝文化の灯〟だけは消さないようにと、試行錯誤を繰り返してきた。私たち音楽隊・創価グロリア吹奏楽団も、池田先生から贈られた「音楽隊訓」に刻まれる〝新たな大衆文化の種を蒔き、明日への希望に燃える、大音楽運動を、ともに展開しよう〟との言葉を胸に、オンラインを活用したリモート練習を始め、動画投稿サイトを使っての音楽配信などを行ってきた。
楽団員の中には、近隣への配慮から家やアパートでは楽器を吹けず、練習場所を確保すること自体が一つの挑戦というメンバーもいれば、コロナ禍の影響で仕事をはじめ生活環境の変化に奮闘するメンバーも少なくない。しかし、そんな中でも楽器を握ることを諦めなかった日々が、楽団員一人一人を強くし、大きな力になったと確信している。

本年10月に行われた全日本吹奏楽コンクールでは3大会連続となる全国「金賞」を受賞。支えてくださったすべての方々がいてこその結果であると感謝の思いは尽きない。また同時に、皆で集まって一緒に演奏できることが、どれほど幸せなことなのかと、これほど感じた大会はなかった。

楽聖ベートーベンが紡いだ「歓喜の歌」

本年11月の「創価学会創立記念日」を祝賀する本部幹部会でも、「第九」の愛称で親しまれるベートーベンの「交響曲第9番」の最終楽章「歓喜の歌」を世界の友と演奏させていただいた。

この「歓喜の歌」は、ベートーベンと同時代を生きたドイツの詩人シラーの詩「歓喜に寄す」に曲をつけた合唱曲。作曲当時は、合唱付きの交響曲は他に例がなく、ベートーベンの〝新思考〟、新たな挑戦によって生み出されたものである。
「第九」を作曲した当時、ベートーベンの耳は、ほとんど聞こえなくなっていたことで知られる。音楽家として生計を立て、誰よりも音楽に情熱を注いだ一人として、音を失うということは、きっと死を意味することに近く、地獄のような苦悩があったに違いない。

そんな中で、なぜ彼は「歓喜に寄す」を選んだのか――。
フランスの文豪ロマン・ロランは、「第九」を、嵐の生涯に打ち勝ったベートーベンの「精神の凱歌」と位置づけている。「不幸な貧しい病身な孤独な一人の人間、まるで悩みそのもののような人間、世の中から歓喜を拒まれたその人間がみずから歓喜を造り出す――それを世界に贈りものとするために。彼は自分の不幸を用いて歓喜を鍛え出す」と。そして「悩みをつき抜けて歓喜にいたれ!」とのベートーベンの言葉に、彼の全生涯がこめられているとロランは結論している。

希望を生み出す音楽の可能性

これまで池田先生は、何度も「第九」の思い出を話してくださった。青年時代からベートーベンの音楽に親しんだこと、恩師・戸田先生の事業を支えていた苦境に「第九」を聴いては奮起したこと……。
また先生は折に触れて、私たちに楽聖の生涯を通して励ましを送ってくださっている。

「私の青春は、ベートーベンとともにあった。レコードがすりきれるほど聴いた。手回しの蓄音機だった。なけなしのお金で買った。音質を言えば、今の機器とは比較にならない。だが『心から心へ』。時を超えて、楽聖のいのちのリズムが、まっすぐに青春の胸を振動させた。貧しいアパートの一室が、その時、燦爛たる芸術の王宮に変わった。彼に励まされて、勇気をもらった人が、どれほどたくさんいることか。人が絶望の淵にいるとき、かたわらに彼は立つ」(2003年10月5日付 聖教新聞「池田SGI会長の地球紀行」)

「あらゆる苦悩の暗雲をつき抜けて、雲上の晴れわたる青空のごとき“歓喜の境涯”にまで自身を高めた。「第九」は、そうした人間ベートーベンの人生最終楽章の勝利の証である」(1990年11月の本部幹部会でのスピーチ)

1990年11月には池田先生より、「『第九』を歌おう」と呼び掛けていただいたこともある。その際、日蓮正宗宗門は〝外道礼賛〟などと言いがかりを付け、人類の遺産である文化・芸術を公然と否定した。識者からは「人間精神の普遍的な昇華がもたらす芸術を、無理やり宗教のカテゴリーに当てはめ、邪教徒をつくり断罪する、あの魔女狩りにも似た宗教的独断の表れである」等と、厳しい指摘が相次いだ。
この出来事一つをとっても、学会が世界宗教へと飛翔する上で、宗門との決別は歴史の必然であったと私は思う。

ともあれ、学会はこれまで、幾度となく「第九」を歌い奏で、前進のリズムを刻んできた。
音楽には、人と人の心をつなぐ力がある。
コロナ禍によって、経済格差の問題や、分断や差別による衝突が世界的な課題となっている昨今。これから人類がどのようにして、共生の方向へ、平和の方向へと歩んでいけるのか――私はその一助となるのが、「音楽の力」であると信じている。
〝苦悩の中から歓喜を作り出す〟社会の建設へ。創価の音楽隊員として、一人の青年として、自身にできる全力の挑戦を、またここから開始する決意だ。

創価グロリア吹奏楽団 代表 石川芳明